京都の客室稼働率が高くなったことで、日帰り客は増えているのか?

2016年の訪日外国人数は2400万人(前年比約22%増)を超えました。2020年には4000万人を目指すことになっています。順調に増えているようですが、これが各地域の旅行に与える影響は様々で、国全体と同じように成長しているとは限りません。

とくに京都の場合は宿泊施設の供給が追いついていないので、京都には行きたいけど泊まれないから日帰りで、という選択が日本人のあいだで増えているのではないかという声も聞かれます。京都文化コンベンションビューローが発表している京都市内のホテル統計によると、客室稼働率は2016年も高水準をキープしていることがわかります。

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そこで今回は、観光客数のデータをあらためて整理しつつ、京都への日帰り客が増えているのかどうかを検証してみたいと思います。

観光客数の数え方

まず、国全体の観光客数と、地方の観光客数の数え方が色々あって、意外と複雑な関係にあることを確認しておきましょう。

旅行者は、宿泊客と日帰客に大別できます。これらを合わせて、その観光地に入ってきた人という意味で、入込客と呼びます。

当然ですが、入込客数は、国、都道府県、市町村、観光地点など、どの範囲を観光地とするかによって変わります。

そして一番ややこしいのが、ダブルカウントのルールです。
実人数…同一人物が年に何回その観光地を訪れても1人としか数えない
延人数…同一人物が年に2回訪れた場合は2人回と数える
延泊数…同一人物が年に2泊3日の旅行を4回した場合は8人泊と数える

これらの区分を、2015年のデータについて調べてみると、下表のようになります。(海外旅行は含んでいません)。見つけきれてなかったり、うまく計算すれば出せる部分があったらすみません・・・

(2015年 単位:百万)

    京都市
    実人数 延人数 延泊数 実人数 延人数 延泊数
日本人 入込 89.2 604.7 735.5      
宿泊 78.8 313.0 438.5   10.5  
日帰 61.3 291.7    
外国人 入込   19.7        
宿泊   42.2 65.6   3.2 7.3
日帰        
合計 入込   624.4     56.8  
宿泊   355.2 504.1   13.6 20.9
日帰       43.2

訪日外国人2000万人目前!と言っていたのは、太字で示した部分(1974万人)です。法務省出入国管理統計をベースに、JNTO(日本政府観光局)が集計発表しています。ですが、JTB総研が加工・公表しているエクセルデータのほうが便利なのでオススメです(画面を下の方へスクロールしていくと、右下にポップアップでダウンロードの案内が現れます)。

国全体の日本人の旅行動向は、旅行・観光消費動向調査で把握することができます。インバウンドの影に隠れてしまっていてあまり注目されていませんが、このデータ知らなかったら観光業界ではモグリと呼ばれてもしかたないってくらい重要なデータです。

外国人の宿泊客数は、宿泊旅行統計で発表されています。国籍別、都道府県別のクロス集計も用意されているありがたいデータですが、場合によっては従業者数10名以上の施設のみしか対象にしていない集計があるので注意が必要です。

あと、この統計では、延人数のことが実人数と表記され、延泊数のことが延人数と表記されています。非常にややこしく、間違えやすいので注意が必要です。

京都市のデータは、京都市が実施している京都観光総合調査から把握することができます。国のような入国管理ゲートがあるわけではないので、入込客の把握は難しいのですが、それでも京都は様々なデータをもとに推計を行っており、データは充実しているほうです。

京都市の観光客数の変化

それでも、外国人客が増えたことで日帰り客が増えている、という仮説を検証するには材料が足りません。有償であれば、GPSWifiを活用したビッグデータを駆使することで把握できるようにはなってきましたが、無償ではまだ難しいというのが正直なところです。

そこで、観光地の範囲を「京都市」ではなく「京都府」に広げてみることにします。都道府県別であれば比較的利用できるデータの幅が広がり、仮説を検証することができるようになるからです。また、京都府の観光の大部分は京都市が占めているので、だいたい京都市の傾向をつかむことはできます。

まず、訪日外国人消費動向調査で、外国人の都道府県別訪問率が分かります。これによると、2015年は訪日1974万人のうち24.8%が京都府を訪れているので、京都府の外国人入込客延人数は約482万人となります。

2015年の京都府における外国人宿泊客数は、宿泊旅行統計によると約247万人となっています(京都市の統計では316万人なので過小推計)。入込482万人から宿泊247万人を差し引くと、日帰り(京都に来たけど宿泊しなかった外国人)は、約235万人となります。

京都府を訪れた日本人については、宿泊・日帰りともに宿泊旅行統計で把握することができます。これらのデータを2014年から3年間に渡って整理すると、以下のようになります。なお、2016年のデータは、宿泊旅行統計が10月まで、訪日外国人消費動向調査が四半期別までしか公表されていません。宿泊旅行統計は12/10倍で拡大推計、訪日外国人消費動向調査はサンプル数で加重平均して京都府の訪問率を算出しています。

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全体としては少しずつ増えています(28.7→30.6→31.1)。なお、京都市の入込客数は統計上5500万人を超えており、上記の数値は過小となっていますが、これは調査手法や定義が異なることによるものと考えてください。

2016年の日本人宿泊客が大幅減っていますが、これはまだ11月の紅葉シーズンが含まれていない段階での拡大推計であるためだと考えられます。そうじゃないと、外国人と合わせた宿泊客数が2015年より減ることになってしまうので不自然です。とはいえ、日本人による日帰りの比率が上がっている傾向であることは確からしいです。

外国人のほうも宿泊客数は微増で、日帰り客が大幅に増える結果となっています。実際、冒頭のコンベンションビューローのデータによると、台湾からの宿泊客数は前年同月比割れが1年近く続いていることがわかります。

この理由としては、宿泊単価が上がっていることで宿泊しにくくなっていること、他地方へ流れてしまっていること、あるいは統計から漏れやすい小規模宿泊施設や民泊に流れている可能性も考えられます。日帰り客は、滞在時間が限られてしまうことから、どうしても訪問スポットが有名所に限られやすいと考えられます。

高級路線を狙いすぎるがあまり日帰り客によって観光地を混雑させてしまうぐらいなら、安くてもいいからゲストハウスを整備して京都市内で宿泊してもらったほうが、需要の分散、地域経済の循環の両面で望ましいのではないかと思います。もちろん、「安かろう悪かろう」という言葉があるので、観光地のブランドを損なうようなサービス提供にならないようにすることとのバランスは見極めなければなりません。

ということで、かなり乱暴な推計でデータ間の整合性も怪しいものの、一応公表データを組み合わせることで仮説を検証することができました。

まとめ

  • 観光客数の定義はややこしいので気をつけよう(単位に注意)
  • 既存の統計を組み合わせることで、外国人の日帰り客を推計することができる
  • 宿泊需給が逼迫している京都は、日帰客が増えている可能性が高い