京都市版DMO発足記念シンポジウムを終えて

 

シンポジウム開催の経緯

京都市観光協会観光庁からDMOに認定されたのは2017年の11月でした。ただ、認定されたからといって、その日を境になにかが激的に変わったわけではありません。2018年度に認定を受けたDMOを対象とした補助金(全国計約16億円)が執行されたというくらいです。まぁ、認定の基準は一応あるにはあるんですが、組織や事業の質はさまざまなので柔軟に評価せざるを得ず、正直なところ判定基準はガバガバだと思います。

なので、何を持ってDMOがDMOとして活動できているかどうかは、そのDMO自身の心持ちによって決まると言っても過言ではないと思います。僕としては、京都に戻ってきてDMOで仕事をし始めたときから、既にDMOとして活動しているつもりではあります。とはいえ、外から見て「具体的に何が変わったの(変わるの)?」という問いに対する明快な答えを用意できていたわけではありませんし、内部的にも十分な理解を得られて来たとはいえない状況だったので、相応の準備を経て対外的にDMO化の宣言を行う必要がありました。

そういった経緯で、2018年の9月という今更のタイミングではありますが、シンポジウムの開催を行うことになりました。基本的な下記リンクからご確認ください。

以下は、当日印象に残った登壇者(おもにデービッドアトキンソン氏ですが)の発言で印象に残った部分のおさらいと感想です。

宿泊税はオーバーツーリズム対策の常識

京都市においても10月から宿泊税の課税が始まります。導入にあたっては賛否両論あったわけですが、やはりオーバーツーリズムを解消しながら地域経済を成長させるためには、最もオーソドックスで効果的な施策であるということが確認されました(厳密には、きちんと効果測定をしないといけませんが)。

「課税によって宿泊価格が上がることで客に逃げられて困る」という懸念は、個社の立場からすれば確かに重大事ではありますが、地域経営全体の目線からすると「価格が上がっても勝負できるレベルの宿以外が淘汰されることはやむを得ない(むしろ望ましい)」ということなのです。

京都としては「知恵を絞って、設備投資も行って、常にハイエンドやエッジの効いたスタイルを狙っていくスタイルで、観光都市間競争を生き残っていく」と決めているので、「これに付いてきてくれないのなら京都以外の街のほうがやりやすいですよ」というくらいのメッセージを改めて伝えていかなくてはならないと思います。

なおかつ、このハイエンド化へのサポートを、宿泊税を財源として進めていくことで、正のフィードバックを働かせる必要もあります。市民の福祉やインフラ整備の充実は大事ですが、ハイエンド化につながらないことに宿泊税を使ってしまうと、徐々に値上げの方針に耐えられない事業者が続出してしまい、結果として税収が減ってしまうという悪循環に陥ってしまうからです。

このあたりの基本的な仕組みを、関係者がどれだけきっちりと認識できているかどうかで、地域の底力が試されると思いました。

人口増加時代の観光

アトキンソン氏は「昭和の観光」という表現を使っていましたが、僕に言わせてみれば、平成に入ってもいまだに同じビジネスモデルがしぶとく生き残っているので、「人口増加時代の観光」のほうがしっくりきます。この言葉が意味するところは、これまでこのブログでも節々で説明してきたと思いますが、あらためて確認しておきたいと思います。

すなわち、人口が増える時代は、顧客の満足度を高めてリピーター化する努力をしなくても常に新しい顧客が現れるので、とにかく宣伝して呼び込むことだけに注力すれば良かったということ。極端に言うと、新しい顧客がどれだけ不愉快な思いをして二度と来ないとなったとしても、また別の客を探せばいいだけだった、ということです。

そうすると、客を送り込む時点で収益を得られる交通機関や発地側の旅行会社の権限が強くなってしまい、着地側のサービスレベルを上げる取り組みが大幅に遅れてしまうことになります。シンポジウム会場では明言されませんでしたが、JRによる京の冬の旅などのデスティネーションキャンペーンは、まさにその典型と言えます(ポスターなどによるイメージの宣伝が中心で、顧客体験の価値を高めることにリソースが割かれてきていなかった、ということはまごうことなき事実です)。

ただ、インバウンドに関しては、アジア諸国の海外旅行人口が増加する余地があるので、旧来型のビジネスモデルでも通用しないこともないとは思います。とはいえ、それは中国やインドをターゲットにしている場合の話であり、京都は欧米や富裕層などの人口が増えないパイを取りに行く戦いに臨んでいるわけなので、基本的にはリピーター戦略をとらないといけないと僕は考えています。

京都に来ない人の気持ちを把握せよ

すでに来てくれた人のみを対象にした調査だけじゃなくて、来てくれない人が何を考えているのかを明らかにする必要があるということが、シンポジウムの話題にあがりました。これも僕が前からずっと要求してきたことなのですが、きちんとした調査をしてきた実績がない自治体のなかで、調査の必要性を理解してもらうのは至難の技だったので、外部の識者から指摘が入ったことは僥倖の極みです。とくに、「京都はとくに行きたくなくても、とりあえず行く観光地」であるというアトキンソン氏の指摘は、今一度噛み締めないといけないと思います。

ただし、僕はファンベースマーケティングの信仰者なので、外側に対するマーケティングよりは、ファンの気持ちをしっかりと理解することのほうのウェイトのほうが重いとは思っています。まぁ、ここはバランスということで。

客室稼働率は低くていい

これも固定概念を打破しましょうという話。

宿泊施設や交通機関など、在庫できない(後で売るということができない)タイプのサービスは、どうしても部屋や車両を満杯にしようとしてしまいます。交通機関の場合は法律による運賃規制があるので仕方がない面もありますが、宿泊施設などにはそういった制約はありません。

極端な話、1万円の部屋を100人に売るのも、100万円の部屋を1人に売るのも、売上は一緒です。でも、客室稼働率が高くなるとホテルの予約を取るのが難しくなり、行きたい時に行けないという機会損失が発生することになります(価格が高すぎて行けないっていう機会損失もあるやん、というご指摘もあるかもしれませんが、それは先程のハイエンド戦略からするとそもそも京都のターゲットではない、という整理になります)。

とはいえ、あまりにも客の少ないホテルで過ごすのはなんだか寂しいですし、ごく少数の顧客に依存するのは経営上のリスクも高くなります。アトキンソン氏いわく、理想的な稼働率は65%程度、とのことです(京都の主要ホテルの稼働率は90%弱です)。

文化観光にこだわりすぎ

京都の観光といえば、二言目には「文化」というキーワードが飛び出てきますが、「文化」だけで勝負するのは無理がある、という話題もありました。ブランドのコアに「文化」があることには間違いないけれども、抽象的ですぐに理解するのは難しい価値なので、「自然」や「アクティビティ」など、わかりやすいコンテンツで間口を広げましょうということです。

ちょうどこれから、ビギナーにはビギナー向けの、リピーターにはリピーター向けのコンテンツ配信を科学的に行っていこうと思っていたところなので、これも僕にとっては追い風です。

人間、自分にとって都合のよい事しか解釈できないとはいいますが、そうだとしてもこれだけ自分が信じてやってきたことにポジティブになれるのは、ありがたいことです。

DMOの施策を実現化する「場」づくり

今回のシンポジウムは、僕がこれからやりたいことを発表する場になったわけですが、間髪入れず、パネラーから「言ったからには全部やってくださいね」と釘を刺されてしまいました笑。そのためには、関係者を巻き込みながら取り組むような「場」を作ることが有効だ、というご示唆もいただきました。

実は、それも既に取り組む計画です。若手やベンチャーマインドのある人たちが気軽に集まることができて、その筋で著名なゲストスピーカーを招きつつ、観光の課題についてアイデアを出したり、観光協会がやろうしている事業の企画に加わってもらったりできるような場を、できれば月1回くらいはやっていければいいなぁという感じです。

まとめ

  • やりたいことがいっぱい
  • 後押しする意見がたくさん出た
  • みなさん応援してください