ローカルDMO単体でのプロモーションの是非について

JNTOとDMOの比較イラスト

観光業界の話題といえば、もっぱらオーバーツーリズムですが、観光政策においては下記の記事の話題で盛り上がっております。

これについては、先日のやまとごころに取材していただいた記事で、「DMOの主な役割は情報発信」と言った(書いてもらった)こととも関連するので、改めて僕なりの見解を整理しておきたいと思います。(言葉足らずだったところもあると思うので、補足させてください)

  • 常々言っていることですが、僕にとってのマーケティングは、アドバタイジング(宣伝)ではなくて、市場の可視化による公平かつ健全な社会作りを目指した活動だということ。
  • 「DMOの情報発信」=「誘客活動」という限定的な解釈をしてしまうことは、DMOの活動に対するよくある誤解です。少なくとも、僕がDMOに来てから重点的に取り組んでいるのは、観光客とのコミュニケーションではなくて、法人サイトの構築をはじめとした地域の観光事業者やメディアとのコミュニケーションです。なので、DMOの情報発信の直接的な目的が誘客とは限らないことは証明済みです。
  • そうでなくても、DMOであるかどうかに関わらず一般的に、情報発信が誰にどんなタイミングで届いていて、それがどのような態度変化をもたらしているかを把握することは、当たり前に必要なことです。どういう意味で情報発信という言葉を使っているのかをはっきりさせないままに議論しても、しょうがないと思います。
  • 京都を旅行先として認知させたり、行きたいと思わせるような初期段階のコミュニケーションは、たしかに国単位で莫大な予算をかけてやらないと効果は薄いかもしれないとは思います。それでも、タイやシンガポールなど観光に力を入れている国には簡単に力負けしてしまうと言われるくらい競争が激しい世界なので、地域単体で戦える余地が少ないことは事実です。たとえJNTOであっても、宣伝活動のROI(投資対効果)は怪しいんじゃないかとも思います。いっそのこと、国全体としてのプロモーションを辞めたとしても、日本はガラパゴスだからこそ魅力的と評価されてきた節があるので、意外とうまく行ったりして笑
  • 一方で、冒頭で引用したトラベルボイスの記事にあるように、「国全体が設定しているターゲット」と「地域として設定しているターゲット」のあいだに乖離があるのであれば、ローカルDMOがアドバタイジングする意義は多少なりともあるかもしれません。とはいえ、本来はJNTOがローカルDMOとちゃんと連携して、ローカルDMOが届けたいネタを届けたい相手に届くように整理できるのであれば、JNTOに任せてしまうのが理想だと思います。ただ残念ながらそれが十分ではないから、ローカルDMO自身でアドやプロモをやらないといけないことになってしまっていて、今回のような議論に陥っているのだと思います。
  • いずれにしても、京都訪問を決めてからの細かい選択の場面において、より感動を得られる体験へと誘導したり、困りごとを解決したりといったことは、ローカルDMOにしかできないことなので、これを目的とした情報発信は、否定されるものではないです。そして、そうした情報発信は、往々にして誘客活動を兼ねてしまうことが多いので、前述のような誤解を招いてしまうのだと思います。
  • やまとごころの記事にも書いてもらったとおりですが、こうした情報発信を通して得られるデータを整理することで、地域の事業者と合意形成を図っていくことは、ローカルDMOにしかできないことです。

まとめ

誰(JNTO or ローカルDMO or 民間)が、

誰(旅マエ客 or 旅ナカ客 or 事業者 or メディア)に対して、

何(誘客 or 顧客体験改善 or 市場健全化 or 地域合意形成)を目的に、

情報発信をするのかの組み合わせは様々であり、議論しても枚挙にいとまがないです。中央機関で「あるべき論」を議論するよりも、相手先であるローカルDMOや自治体と話し合ったほうが多分早く答えにたどり着けると思います。

 

つまり、この議論の本質は、JNTOがローカルDMOともっと積極的にコミュニケーションを行って、日本の観光コンテンツのポートフォリオを作って合意形成をしていく気概があるのかどうかということに尽きます。どちらがアドやプロモをやるべきかどうかという表面的な議論ではなく、これをきっかけにして合意形成にチャレンジしていく流れができることを期待します。