分析結果がプレスリリースに載りました

おかげさまで,これまで分析してきたことの一部が市役所のプレスリリースに載りました.

京都市:入洛観光客の延べ宿泊客数推計及び京都観光総合調査データを活用した分析結果について

延べ泊数に関する前半部分よりも,旅行者の行動パターンを明らかにする分析に関する後半部分のほうが付加価値の高い仕事なのですが,どうしても世間受けを考えると分かりやすい前半部分のほうにスポットが当たってしまいます.下記の記事で書いた内容に通ずるものがあります.

とくに,ネガティブな分析結果を出すことには偉い人が嫌がるので(批判を回避するために美辞麗句を並べることのほうが,よほど市民に対する説明責任を果たしていないことになると思うので),ここで正直な分析結果を書いておきたいと思います.

滞在期間が長いことのメリット

一応,前半部分についても触れておきたいと思います.前半部分で分かったことは,京都市が平均宿泊日数で全国1,2位を争う水準であるということです.観光庁の宿泊旅行統計を用いた特別集計や,外国人のみの延べ泊数を出している自治体の資料はありますが,市町村独自で推計結果を出したのはおそらく京都市が初めてです.

東京23区や大阪市で推計を行ったら京都市を更に上回る可能性はありますが,ビジネス比率が高いこれらの都市と単純に比較してもあまり意味ないので,やはり京都市のレベルはかなり高いと言っていいでしょう.

日本全体の延べ泊数は約50,000万人泊で,京都市が2,150万人泊(約4.3%)となっています.この4.3%という数字を維持しながら消費単価を上げていくというのが,需要側だけを見る限りはバランスの取れた方針かなと思います.

ちなみに,今回の京都市の数値は,宿泊旅行統計における京都府の数値を上回ってしまっています.これはおそらく,京都市内に簡易宿所が多いことが原因です.小規模宿泊施設は全数調査ができないので,一部の施設に対してランダムで調査を行い,その結果から推定を行うことで誤差が出やすいのです.いずれにしても,国のデータも今回のデータも違法民泊の影響が反映されていないので,絶対値としての評価よりも2年目以降のデータが溜まってきてからの時系列分析が重要です.

滞在期間が長くなることの意味

滞在期間が長くなると,1日あたりの消費額は減る傾向にあります(今回のプレスではこのデータは掲載していませんが).なので,経済効率を考えると滞在期間を短くして,入れ代わり立ち代わり新しい人に来てもらったほうが収支はプラスとなります.とくに,交通事業者は喜ぶでしょう.

ただしそれは,次の来訪者が無尽蔵にやってくるという条件が続かなければ成立しません.人生に1回しか京都訪れないような外国人にはなるべく長く滞在してもらったほうが,近場の人に何度も来てもらうよりもプラスとなる可能性が高いです(リピーターのほうが消費単価が低いことは,プレス結果に掲載しています).

長期滞在者のほうが,地域に対する理解が深まりやすかったり,人気スポット以外にも訪問しやすく混雑解消にも繋がったりと,質的な効果も期待できます.そのあたりも勘案しつつ,ビギナーは長期滞在,リピーターは単価底上げ重視で,最適なバランスを探していくというのが落とし所でしょう.

インフルエンサープロモーション

いよいよ後半部分の話です.まず分かったことは,消費単価が高く,人気エリア以外も訪問してくれるような,京都にとってありがたい旅行者は情報収集に積極的ということです.まぁ,当然の結果ではありますが.

京都観光が量よりも質へシフトしていくうえで,不特定多数を対象にした従来型のプロモーションで情報収集に受け身な人たちを振り向かせるよりも,情報感度の高いインフルエンサーと呼ばれる人たちに刺さるような情報発信をしていくことが有効ということで,今後はクリエイティブなコンテンツを強化していければいいな,という感じです.(現時点で,こういう取組をします,と宣言できないのがつらいところ)

5泊目の壁を乗り越えるには

国籍別に,日本滞在日数と京都滞在日数の関係を集計した結果も掲載していますが,日本滞在期間が伸びても,京都滞在期間は4泊程度で頭打ちとなっています.前述のとおり,滞在期間を伸ばしていくためにはこの壁を乗り越えなければなりません.ベタですが,5泊のモデルプランを作ってみるのが良いかもしれません.

飲食店の接客改善が大事

重回帰分析によって,総合満足度に与える影響が大きい要素を調べたところ,日本人は「飲食」が重要であることが分かりました.飲食の満足度を上げていくためには,観光客にとっての選択肢を増えるように情報発信をしていくことというのが模範的な回答ですが,実際に満足度を押し下げているのは観光地にありがちなホスピタリティゼロの店員の存在です.

接客の研修や表彰をしても効果は限定的だと思うので,みんなで頑張って口コミを投稿して,同じ被害に合う人を減らすのが早いんじゃなかなと思います.(投げやりですみません)

満を持してネットプロモータースコア

ようやく,究極の指標「NPS」を発表することができました.NPSについては,以下の記事をご覧ください.

今回のプレスでは,日本人と外国人のNPSの四半期推移を掲載しています.日本人観光客は,混雑に対する不満があったり外国人客の勢いに押されたりで数が減っていますが,着実にロイヤリティの高い人が増える傾向にあります.

いっぽうで,外国人は2015年から頭打ちとなっています.個人的にはこれが一番重大な情報だと思っています.この天井を突き破るための穴がどこかにあるのか,無いとなると市場は成熟モードに入ってしまうので,投資よりもコストカットを視野に入れた戦略に切り替えていかなければならなくなります.

すでに京都市内では民泊業者の淘汰が始まっていますが,インバウンド関連の倒産や不良債権の処理が増えてきたときのに,勝ち残った事業者へスムーズに統合されていくような仕掛けが必要になるんじゃないかな,と思います.

 

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正直まだまだ序の口なので,もっと施策に直結するようなテーマを絞った分析をしていきたいと思っています.色々ご意見いただければ今後の分析に反映していきたいので,ご意見・ご感想お待ちしております.