DMOはどのように稼ぐのか?
JTB総研が国内のDMO候補法人の収益構造についての調査記事を発表されました。
「日本版DMOはどのように稼ぐのか?~自律的・継続的な運営に向けて~」(2017/2/13)
これによると、観光協会などのDMO候補法人は、主な事業の内容によって大きく5つに分けられており、行政からの補助金に頼っている組織ばかりではないと述べられています。
収入構造の類型 | 定義 | 比率(法人数ベース) |
行政連携型 | 国・県・市町村からの補助金が選収入の60%以上を占める | 24% |
バランス型 | 60%を超える収入源がなく、偏りが少ない | 40% |
事業運営型 | 自らの収益事業による収入が60%以上を占める | 29% |
指定管理型・ 施設運営型 |
指定管理・施設運営による収入が60%以上を占める | 4% |
業務委託型 | 行政からの業務受託が60%以上を占める | 2% |
不明 | ― | 1% |
形成計画書から収入源が把握できるとは限らない
たしかに、自主事業で財源を賄っているところはそれなりに存在するとは思いますが、この調査の根拠となっている各DMO候補法人の形成計画における財源一覧において「収益事業」とされている金額が、必ずしも全て民間からの収入とは限りません。
というのも、収益事業のなかに行政からの委託費が含まれている可能性があるからです。行政からの独立性という観点で評価する場合、上記のような区分をもとした分析ではミスリードを招いてしまう可能性があります。
補助事業と委託事業の違い
たとえ形成計画の区分が正しかったとしても、その区分がDMOの性格を捉えるのにふさわしいかどうかは別問題です。とくに、補助事業と委託事業という区分については、注意が必要です。
「補助金漬け」という言葉があるとおり、補助を受けている団体は補助が無かったら何もできなくなる、なんて批判があります。たしかにそういうケースもあるかもしれませんが、本来補助金とはその団体が自主的に行おうとしている事業に対する支援資金なので、その団体の自主性を尊重した仕組みです。
一方で委託事業の場合は、価格入札なり企画提案による競争が発生することが多いので、その事業に対して受託事業者は主体性を帯びやすいと考えられがちです。しかし、委託事業の実施主体はあくまでも行政側ですし、知財などの権利も行政側に残ってしまうので、受託事業者(DMO)側の主体性が補助事業よりも強いとは限りません。
大事なのは、補助に頼らないと成立しないような事業を採算が取れる事業になるように育て上げる努力をしているかであったり、DMOとしてやるべきだと考えている事業を選んで受託しているか、ということです。また、補助金漬けよりもタチが悪いのは、他の民間事業者と競合するような委託事業をいつまでもDMOが既得権益として抱えてしまうことです。
分類 | 一般的なDMOの議論における位置付け | 実際のところ(個人的な意見) |
補助事業 | 行政に依存してしまうので、 減らしたほうがよい |
DMOの主体性を尊重。補助金なしでも事業として自立させる努力をしているかが重要。 |
委託事業 | 競争にさらされているので、自律した組織経営につながる。 | DMOが主体性を持てているとは限らない。 DMOに必要な事業をするうえでの財源として、行政からの委託費を利用できているかが重要。 一方で、既得権益化してしまうと、競争を阻害する要因にもなる。 |
補助と委託については、こちらの資料をご参照ください。
経済産業省 資料「委託費と補助金の違い」
自主事業は、いずれ手放すべき
補助なのか委託なのかは大したことじゃないのはわかった。でも、自主財源を増やすことは大事でしょ?という意見も、DMOの議論におけるステレオタイプのひとつです。必ずしも間違いではありませんが、自主財源が多ければいいというものでもありません。
そもそも、DMOのミッションは、観光客を呼ぶ持続的なビジネスサイクルを作ることです。いくら自主財源の比率が高くても、その収益が既存の事業の維持のために使い果たされてしまっていたのでは、いずれサイクルが破綻するときがやってきてしまいます。
たとえ自主事業の比率が減ろうとも、新たな補助事業を企画したり、委託事業を仕込んだりして、次に続く芽を育てることのほうが重要です。軌道に乗った自主事業は、よほどDMOでなければできない理由がない限りは、子会社化して配当収入を得られるようにするか、民間事業者に売却すれば良いんじゃないかと思います。
DMOの究極の事業形態
ICT技術が未熟な時代は、公益的な事業は補助金や委託に頼らなければ事業として成立させることが難しかったわけですが、ICT技術が発達するにつれて市場の失敗は減り、ソーシャルビジネスと呼ばれるようなビジネスモデルが勃興するようになってきました。つまり、公益性の高い事業であっても、いきなり民間企業がビジネスとして成立させやすくなる、ということです。
そうなると、どうなるか。
DMOとしては補助や委託を受けて自分たちで事業を担うよりも、ベンチャーキャピタルみたいに新たなビジネスアイディアを見つけてきて投資をしていくことを目指すべきではないかと思います。
ということで、JTB総研のコラムにある「DMOはどのように稼ぐのか」という問いに対する僕の回答は、「観光ベンチャー企業からのキャピタルゲイン」です。(もちろん、会費を集めてマーケティングやプロモーションを行う従来型の事業は、それでそれで残るという前提)