観光イメージ動画の投資対効果について(ツーリズムEXPO2017の感想②)

 

国内で最も広いエリアを対象としている「せとうちDMO」は,DMOの国内事例としてよく取り上げられています.その理由は,僕の認識では3つあります.

  • これまで,当該エリアにまたがってそれなりの活動する組織は無かったので,何をやるにしても初めてのことが多く,比較的しがらみも少ないので画を描きやすかったということ.
  • 観光事業者を支援するファンドを創設したこと.従来の観光協会のような組織では発想されなかったような投資型のビジネスモデルが導入された典型例です.ファンドなんて世の中に他にも色々とありますが,投資先の判断を確実に行うためには,観光分野に特化したマーケティングを行うことが必要です.そのためにはDMOとしてのマーケティング活動が必要,という本質を明らかにした点が評価されているんだと思います.
  • プロモーションの手段として動画広告を導入し,マーケティング指標の可視化のお手本を忠実にこなしたこと.組織のあり方とかごちゃごちゃ議論する暇があったら,とっととマーケティングするべきってことです.

で,その「せとうちDMO」でのマーケティング事例の講演が,ツーリズムEXPOの会場で行われていたので聞いてきました.

まずは認知.そのための動画配信.

商品を売ったり,旅行者に来てもらうためには,まずはとにかく認知をしてもらうこと,というのがプロモーションの王道です.とくに,瀬戸内海というエリアは外国人にほとんど知られていないので,とにかく知ってもらうための宣伝から始めなければなりません.

とはいえ,情報に溢れた現代社会では生半可な広告を打ってもすぐに埋もれてしまいます.そこで,せとうちDMOでは補助金を活用して瀬戸内エリアのイメージ動画を作成しました.

興味深かったのは,観光地に対する旅行者の態度変容にあわせて,動画の内容を3段階に分けていたことです.

  • イメージ:そもそも全く日本や瀬戸内海のことを知らない人向け
  • アクティビティ:瀬戸内でどんな体験ができるのか
  • 手段検討:アクセスにかかる時間や料金などの具体的な情報

また,旅行者の居住地や文化によって動画の趣味趣向が異なることを想定して,上記の3段階の内容を,アップテンポな雰囲気と落ち着いた雰囲気の2パターン用意し,合計で6本の動画が作成されていました.

 

www.youtube.com

 

ゴールはホームページでの予約行動

この動画をYoutubeFacebookで配信することで,DMOのホームページにアクセスしてもらい,航空チケットの予約をしてもらうことが彼らの狙いでした.収益が発生するところへ出口を設定しておくこと,そのためには自社ホームページという受け皿をまずはしっかり作ることが重要だということですね.

配信を行った結果は,当然「イメージ」段階での動画の視聴者数が最も多く,アジアはアップテンポ,欧米は落ち着いた雰囲気が好まれる傾向となっていました.ホームページへの流入率は0.2%~0.3%程度で,アジアのほうが高い傾向にあります.

台湾への配信では,広告費46万円に対して最終的に予約ページにたどり着いた人が25人だったので,一人当たりの経費は18,000円ということになります.もちろん,この25人全員がせとうちエリアに来たとは限りませんし,後日他の予約サイトを利用して来日する人もいるはずなので,これだけで評価をすることは難しいです.しかも,動画の作成にかかった経費が含まれていないので,おそらく投資対効果はマイナスだと思います.

それでも,そういった結果がまず得られたということが,DMOに必要だと言われているPDCAサイクルを回していくことのきっかけにはなるはずなので,他のDMOは見習わなければならないんじゃないかと思います.

 

DMOによる宣伝は無力なのか?

ちなみに,行政やDMOがなけなしの費用でプロモーションを実施したところで,航空会社やホテル,予約サイト等が莫大なお金をかけて行うプロモーションによって,旅行者の意識は決まってしまうという意見があります.

まぁ,それはそうなんだろうなと思います.京都への誘客も,ほとんどはJRによるプロモーションのおかげです.なので,DMOとしてはそういった交通事業者とうまくタイアップをして,彼らの予算を活用したプロモーションを行っていくのが無難なんだと思います.ただ,それではいつまでたっても後手に回ってしまいます.

なんとか旅行者の需要を刺激して,交通事業者に振り向いてもらうような仕掛けは,ないわけでは無いです.インフルエンサーを活用した口コミ波及は,その手段のひとつ,というか今はこれしか思いつきません(笑).適切な例かはわかりませんが,伏見稲荷大社が一大観光スポットになったのは,交通事業者によるプロモーションではなくSNSによる口コミのおかげであったことを考えれば,可能性は少なからずあると思います.

ひとつひとつの可能性は低くても,「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」ということで,DMOとしてこういった現象を意図的に仕掛られるような仕組みを作って,航空機の座席数やホテルの客室数というボトルネックを無理やりこじ開けるような需要を生み出す仕事がしたいなぁ,と思う今日このごろ.