観光立国のまぼろし

ご無沙汰しております、久しぶりの記事更新です。

マーケティングが本業なんですが、諸事情により予算編成の仕事に追われてしまい、記事のネタを考える余裕がありませんでした。DMOは、CMOを雇う前に、会計(Accounting)ができる人を雇うべきじゃないかと思います(笑)。たまたま大昔に簿記の資格をとっていたのが、今になって役に立ちました。何が役に立つか分からないものですね。

2020年に4000万人・8兆円という目標値が持つ意味

余談はさておき、今日は、新しく策定された「観光立国推進基本計画」について書きたいと思います。平成29年度からの4カ年計画で、目標値の更新が主な内容です。

観光庁 報道発表 「観光立国推進基本計画」を閣議決定

たとえば、訪日外国人2000万人だった目標値はすでに去年達成されてしまったので、今回新たに4000万人という目標値に変わっています。ただ、この新たな目標値はすでに色々な資料で出てきている数値なので、それを追認しただけに過ぎません。なので今更ではあるのですが、この目標値についての批判をこのブログにはまだ書いてなかったので一応触れておきたいと思います。

まず、2020年に4000万人を達成できるかどうかという点についてですが、可能性は無くはないと思います。なぜなら、なんといってもオリンピックの開催効果が期待できるからです。実際、下図のとおり、過去の実績からいくとトレンドを上回るように寄与しています。

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あと、現状、日本における外国人観光客数のカウントには航空会社の乗務員が含まれていませんが、これを含めることで水増しすることもできるということが、業界内では囁かれています(笑)。GDP600兆円の目標達成でも似たような話があって、それに比べたら可愛いもんですが、噂にすらならないところで数値の操作が行われうることを否定できないところに、今の統計制度の限界を感じます。

いずれにしても、4000万人(消費額にすると8兆円)という目標は旅行者の消費単価が劇的に上昇しない限りは、観光産業を自動車産業に匹敵する輸出産業に成長させるうえで必要な水準なので、水増しせずに達成しなければならないことには違いありません。

僕が今回指摘したいのは、この目標値の達成期限が2020年となっているところです。オリンピックが開催されることで訪日外国人数が急増する2020年に目標値を設定するということは、「ドーピングをしたときに100mを9秒00で走れるようになりたい」って言ってるのと同じです。これから先何度もドーピングできるわけじゃないんだから、素直に目標設定するのであれば、ドーピング無しでのベストタイムで考えるべきだと思いませんか?

まぁ、オリンピック効果を差っ引いた仮想値を算出するようなことは現実的ではないので、オリンピック効果という下駄を履いている前提での目標値ということなら良いのですが、そのあたりの前提を理解せずに計画が動いてしまうと、その後の政策判断を歪める原因にならないかなぁと心配になります。

リピーター数の目標値

リピーター数を2400万人にするという目標が新たに掲げられることになりました。2020年には、訪日外国人の半数以上が少なくとも1回は訪日経験がある状態で訪日するということです。リピーターが増えることは良いことだと思いますが、リピーターという概念は意外と単純ではないので注意が必要です。

まず、リピーターと一括りにいっても色んなリピーターがいます。2回目の訪日の人もいれば、10回以上のベテランもいます。2回目の訪日といっても、5年ぶりの訪日と去年来たばっかりの人とでは旅行者としての質は全く異なります。こういった分布を考慮した指標を設定しないと、目標値としては機能しないんじゃないかと思います。

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どうせリピーターに着目するのであれば、リピーターになり得る人のうちどれくらいが実際にリピートしてくれたのかに絞って集計するべきでしょう。もう少し簡単にいうと、世界に訪日経験がある人が何人くらいいて、そのうち何割が来てくれたかで評価しましょう、ということです。訪日経験のある人がどれくらい存在するかが分かるデータは見たことがありませんが、推計しようと思ったらできなくはないでしょう。というか、観光庁やJNTOにはそれくらいの推計をして欲しいものです。

リピーターの把握は難しいので、ビギナー(リピーターじゃない人)の方に着目して考えてみればいいんじゃないかとも思います(これも有権者にとって分かりにくい目標になってしまうので採用されないとは思いますが)。ただし、そのためには、世界の旅行者マーケットにおいて初めて日本を訪れる可能性のある人が毎年新たにどのくらい現れて、そのうちどれくらいの割合で実際に訪れてくれるのかということを考えなければなりません。とくに、一生の間に数えるほどしか訪日のチャンスがないロングホール(欧米などの長距離圏)市場においては、この割合が重要になるんじゃないかと思います。

要するに、リピーター数の絶対値だけを追い求めてもあんまり意味ないんじゃないの?ってことです。

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(グラフはイメージです)

DMOが一丁目一番地

目標設定の話はこれぐらいにしておいて、具体的な施策のほうを見てみたいと思います。すると、最初に掲げられているのが「2020年までに世界水準のDMOを100組織形成する」ということで、関係者としてはこの追い風は有り難い限りです。

まぁ、世界水準というのがどれくらいのものを想定していて、どのように評価するつもりなのかが分からない時点で及び腰な感じが否めないですが、あんまり文句ばっかり言ってると偉い人たちから怒られそうなので、自分にできることを頑張ろうという感想に留めておきます。

一応、DMOネットというDMO専用の情報共有ポータルサービスや、人材教育プログラムの提供が具体的な取組として始まりつつあります。冒頭で書いた会計スキルなんかは、この人材教育プログラムをうまく活用することで、普及するかもしれないと期待しています。

一方で、できない人を育てるよりも、東京で疲弊している優秀な人材を呼び戻すスキームを作って人材を入れ替えることも考えないと、世界の観光市場の変化に取り残されてしまうんじゃないかという意味で、物足りなさを感じたりもします。

とくに、アプリケーションの開発や、WEBサイトの構築ができるエンジニアや、クリエイティブなコンテンツ企画などができる人材がいないことが、ボトルネックになっていると感じます。こういう人材が一人いるだけで、「新しい事業をやってみよう」「たとえばこんなことってできるんだろうか?」って発想が生まれるようになります。これは、DMOに限らず、行政系の組織全般に言えることです。今いる職員のなかから育てるのは相当難易度が高いので、外部からエンジニアを採用することが喫緊の課題だと思います。

とはいえ、限られた予算のなかで雇用を増やすことは簡単ではありません。入れ替わりで誰かを解雇するにしても、地域の観光振興のためには既存の人材が持っているネットワークを無下にはできないので、そのバランスをうまくとる方法を編み出すことがDMOが成功するための鍵といえそうです。

まとめ

  • 2020年の目標値は、下駄を履いている前提で考えよう
  • リピーターの指標は、分母を考えないと意味ない
  • DMOに足りない人材は、経理とエンジニア(新しい人材と、既存の人材のバランス)