研究と経営の狭間で

どれだけデータの出典や前提条件を明示して,統計的な有意性の有無や,予測なのか目標設定なのかを説明したとしても,データが目に入ってくると自分の持論を補強するためだけにしか解釈しようとしない人はどうしても現れるようです.

そういうタイプの人ほど,そうやって自己主張を続けることで他者を巻き込み,ビジネスの世界で成功してきたような人だったりするので,周囲への影響力も強く,偏った解釈が独り歩きしてしまうんじゃないかと感じます.

仮に自分の業界のサービス満足度が低いからと行って,自社の事業の満足度が低いことを意味しているわけではないし,サービス内容に自信があるならそれを業界全体に広めて底上げしていこうと考えてもらえるように,伝え方を工夫していかないと危ういなとも思いました.

ビジネスに役立ててもらうために,マーケティングデータを提供していくことが地域のためになると信じてやってきましたが,「データ活用の知識がそもそも無い」というのとは異なる方向でリテラシーの問題が発生しうる,というのは盲点でした.それだけ,関心の高いテーマであるということは悪いことではないんですけどね.

でも,こんなことで足踏みをしないといけないような地域からは,本当に必要なアイデアが生まれてくるのに物凄く時間がかかってしまうので,自分たちの実力で地域振興ができているという段階へはたどり着けないんじゃないかな,と心配になってしまいます.実際,話題になっているような地域は,足りないところを受け入れて,前向きにできることから取り組んでいるんじゃないかと思います.

アカデミックの世界であれば,より良い方法の提案や,なんで意見が合わないのかの理由を突き止めようという方向に議論が進むのですが,そうはならず論破することが目的になってしまいがちなのをどのようにコントロールするかが,研究と経営の狭間に立たされる立場の難しさなのかもしれません(それが高尚なことだとは思えないのが残念なところ・・・)

デービッド・アトキンソンが出した数字と,そのへんのコンサルタントが弾いた数字とでは,同じ手法,同じ結果であっても受け止められ方が違ってしまうのは,しょうがないことなんでしょうかね.まぁ,ぐうの音も出ないほどの理論と,ものすごく分かりやすい解説をするだけの実力をつければいいじゃない,と言われればそれまでなので,自分の未熟さを受け入れなければならないですね.

とはいえ,拙いデータからでもなんとか真実を見出して,事業の成功確率を上げていこうと前向きに考えてくれる人のほうが多数派だと信じているので,その期待に沿えるように地道な発信は続けていきたいと思います.

 

観光客数の目標値の作り方

京都観光総合調査を使ったざっくり分析というミッション(下記参照)をひとまず終え,次はDMOとしての戦略を作りたいな,と思っています.そこで今回は,頭の体操のために,戦略を作る上で欠かせない目標設定を試算してみたいと思います.

 

まず前提として,現在の国の目標は以下のとおりです.この数字の根拠についてきちんとした説明は見かけたことがありませんが,たしか日本最大の輸出産業である自動車産業の規模が15兆円くらいだったはずなので,観光をこれに匹敵する産業にしようという発想なのではないかと思います.そうすることで,GDPを現在の500兆から600兆へ押し上げようということみたいです.変動相場制においては輸出を頑張ってもGDPは相殺されるなんて話を聞いたこともありますが,そうだとしても副次的な効果はあるでしょうし,本題から逸れてしまうのでスルーしておきます.

 

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基準はGRP(域内総生産)

京都市の目標値を設定するうえでも,GDPを基準にすることにします.国ではGDP国内総生産)と呼びますが,地域の場合はGRP(域内総生産)と呼びます.京都市GRPは2年遅れくらいで毎年算出されており,21世紀に入ってからは横ばいが続いています.これを市内人口で割った一人当たりGRPも横ばいです.(実質GDPで評価するべき,という話はスルーで)

 

ただ,これからは人口が減少し始めるのでGRPも減少していくと考えられます.京都市の人口推計値を用い,一人当たりGRPは年率0.2%でわずかに成長と仮定して推計した結果,以下のようになりす.ここで成長率を0.2%としたのは辻褄合わせによるものです.一応,2035年になっても一人当たりGRPは427万円で,2007年の431万円を超えないということで,控えめな設定にはなっています.

 

2015年に約6.06兆円あったGRPが,2030年には5.68兆円にまで減るので,いまの経済規模を維持しようと思ったら4000億円くらいの追加が必要ということになります.

一人当たりGRPが増えるなら経済規模が小さくなってもいいんじゃないの?という疑問もあるかもしれませんが,そんなこと言い始めると人口1人になってもいいってことになってしまいます.京都という街にとってどのくらいの経済規模が最適なのかには議論の余地がありますが,とりあえず現状の経済規模を維持することを目標として計算を進めることにします.

 

減少するGRPを埋め合わせるために必要な観光消費

不足するGRP4000億円を稼ぐためには,観光消費額を4000億円増やせばいいという訳ではありません.観光客によって地域にお金が落ちても,それがそのまま域外に流出してしまえばGRPは増えません.

たとえば,観光客に1000円のお土産を売るとして,原材料を300円で市外から調達した場合,その300円は域外流出,残りの700円が販売スタッフや加工する職人の人件費などとして域内の付加価値になる,といったイメージです.

この比率を計算するためには,大規模な調査を行って「産業連関表」というデータを作らないといけないのですが,あいにく京都市では最新の産業連関表(H23調査分)がまだ公表されていません.調査時点から5年経ってしまってるし,震災の影響を受けている可能性もあるので,使えたとしても微妙なデータなんですけどね笑

無いものは無いでしょうがないので,今回は他の地域のデータを参考にしてみることにします.ざっと検索して見つかった,地域単位で観光消費から付加価値額を算出している事例を下表にまとめたところ,だいたい消費額の7割前後が付加価値となっているようです.そこで,京都市も消費額の70%が付加価値となるものと仮定することにします. 

 

GRPを埋め合わせるために必要な消費額を逆算してやると,以下のようになります.だいたい,いま京都市の観光消費額が1.0兆円くらいですが,2020年には1.2兆円,2030年には1.5兆円くらいまで増やさないといけない,という感じです.

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日本人客の減少は避けられない

人口が減少するのは京都市だけではなく全国的な現象なので,当然京都市を訪れる日本人も減少することが予想されます.京都市への観光客だけが都合よく増えるなんてことは起こりえません.国立社会保障・人口問題研究所によると,2030年の人口は2015年の93.5%まで減少する見通しとなっています.日帰と宿泊の比率は変わらないとすると,以下のような感じでグングン減っていきます.

 

 人数の減少は避けられないとなると,できることはただひとつ.消費単価を上げていくことです.

消費単価の設定

消費に関するデータは少ないので,思い切って数字を作るしかありません.

日本人の消費単価は,旅行観光消費動向調査(2015年)における京都府を訪問した人の消費単価を利用しました.これに観光客数を乗じると京都市の消費額を超えてしまうので,コントロールトータル(合計金額が一致するように按分しなおす処理のこと)で調整しています.

外国人のほうは,この記事の冒頭にリンクを張ったプレスリリース上で算出した値を用いています.外国人一人当たり滞在1日あたりの単価が15,875円で,平均泊数が2泊なので滞在は3日だとして,15,875 ✕ 3 = 47,625円としました.訪日客の平均が17万円くらいだったはずなので,京都市における消費額としては違和感の無い数字だと思います.

文章だけだと分かりにくいので,計算の流れを図に整理してみました.

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この消費単価を上げるほど,今後呼ばなければならない人数を抑えることができます.ここは違和感のある数字が出てこないように総合的な判断をした結果(笑),以下のとおり設定しました.

  • 外国人 宿泊客 2,000円up/年
  • 外国人 日帰客    200円up/年
  • 日本人 宿泊客 1,000円up/年
  • 日本人 日帰客    100円up/年

消費単価が上がればそれほど混雑は悪化しない

 以上の結果をもとに,2035年までの予測を行った結果,以下のようになりました.消費単価がうまく上がれば,2015年に5,684万人だった入込客数は,2020年には5,840万人,その後も横ばいという感じです.

逆に言うと,単価を上げることができなかった場合,京都市の経済規模の縮小を受け入れるか,客が来すぎて混雑問題が悪化することを許容するか(ホテル増やしたり,需要分散である程度カバーできるかもですが),ということになってしまいます.

京都市の人口推計の起点が2015年ではなく2010年の人口なので,変化量が不自然なところがありますが,多めに見てください笑

 

 

まとめ

ある程度規模の大きい自治体でないと手に入らないデータを使った部分もありますが,ほとんどは公表データを組み合わせつつ仮定値を挟むことで,他の地域でもこんな感じで目標値を作ることは可能です.

大事なのは,

  • GRPの維持という究極目標に紐付ける
  • 日本人・外国人,宿泊・日帰,単価・人数といった区分に分解して,
    不自然な数値が出ないように調整する

ということです.多少強引でも各数値が連動するようにしておかないと,目標値に届かなったときの原因を解釈するのが難しくなり,目標値がモチベーションを上げるためだけのただの目安になってしまいます.(ほとんどの地域で掲げられている目標が,まさにこの状態).

まだ外に出せてない数値なども使いつつ,今回の試算の精度を高めて,近いうちにもう一発成果を出せるよう頑張ろう.

分析結果がプレスリリースに載りました

おかげさまで,これまで分析してきたことの一部が市役所のプレスリリースに載りました.

京都市:入洛観光客の延べ宿泊客数推計及び京都観光総合調査データを活用した分析結果について

延べ泊数に関する前半部分よりも,旅行者の行動パターンを明らかにする分析に関する後半部分のほうが付加価値の高い仕事なのですが,どうしても世間受けを考えると分かりやすい前半部分のほうにスポットが当たってしまいます.下記の記事で書いた内容に通ずるものがあります.

とくに,ネガティブな分析結果を出すことには偉い人が嫌がるので(批判を回避するために美辞麗句を並べることのほうが,よほど市民に対する説明責任を果たしていないことになると思うので),ここで正直な分析結果を書いておきたいと思います.

滞在期間が長いことのメリット

一応,前半部分についても触れておきたいと思います.前半部分で分かったことは,京都市が平均宿泊日数で全国1,2位を争う水準であるということです.観光庁の宿泊旅行統計を用いた特別集計や,外国人のみの延べ泊数を出している自治体の資料はありますが,市町村独自で推計結果を出したのはおそらく京都市が初めてです.

東京23区や大阪市で推計を行ったら京都市を更に上回る可能性はありますが,ビジネス比率が高いこれらの都市と単純に比較してもあまり意味ないので,やはり京都市のレベルはかなり高いと言っていいでしょう.

日本全体の延べ泊数は約50,000万人泊で,京都市が2,150万人泊(約4.3%)となっています.この4.3%という数字を維持しながら消費単価を上げていくというのが,需要側だけを見る限りはバランスの取れた方針かなと思います.

ちなみに,今回の京都市の数値は,宿泊旅行統計における京都府の数値を上回ってしまっています.これはおそらく,京都市内に簡易宿所が多いことが原因です.小規模宿泊施設は全数調査ができないので,一部の施設に対してランダムで調査を行い,その結果から推定を行うことで誤差が出やすいのです.いずれにしても,国のデータも今回のデータも違法民泊の影響が反映されていないので,絶対値としての評価よりも2年目以降のデータが溜まってきてからの時系列分析が重要です.

滞在期間が長くなることの意味

滞在期間が長くなると,1日あたりの消費額は減る傾向にあります(今回のプレスではこのデータは掲載していませんが).なので,経済効率を考えると滞在期間を短くして,入れ代わり立ち代わり新しい人に来てもらったほうが収支はプラスとなります.とくに,交通事業者は喜ぶでしょう.

ただしそれは,次の来訪者が無尽蔵にやってくるという条件が続かなければ成立しません.人生に1回しか京都訪れないような外国人にはなるべく長く滞在してもらったほうが,近場の人に何度も来てもらうよりもプラスとなる可能性が高いです(リピーターのほうが消費単価が低いことは,プレス結果に掲載しています).

長期滞在者のほうが,地域に対する理解が深まりやすかったり,人気スポット以外にも訪問しやすく混雑解消にも繋がったりと,質的な効果も期待できます.そのあたりも勘案しつつ,ビギナーは長期滞在,リピーターは単価底上げ重視で,最適なバランスを探していくというのが落とし所でしょう.

インフルエンサープロモーション

いよいよ後半部分の話です.まず分かったことは,消費単価が高く,人気エリア以外も訪問してくれるような,京都にとってありがたい旅行者は情報収集に積極的ということです.まぁ,当然の結果ではありますが.

京都観光が量よりも質へシフトしていくうえで,不特定多数を対象にした従来型のプロモーションで情報収集に受け身な人たちを振り向かせるよりも,情報感度の高いインフルエンサーと呼ばれる人たちに刺さるような情報発信をしていくことが有効ということで,今後はクリエイティブなコンテンツを強化していければいいな,という感じです.(現時点で,こういう取組をします,と宣言できないのがつらいところ)

5泊目の壁を乗り越えるには

国籍別に,日本滞在日数と京都滞在日数の関係を集計した結果も掲載していますが,日本滞在期間が伸びても,京都滞在期間は4泊程度で頭打ちとなっています.前述のとおり,滞在期間を伸ばしていくためにはこの壁を乗り越えなければなりません.ベタですが,5泊のモデルプランを作ってみるのが良いかもしれません.

飲食店の接客改善が大事

重回帰分析によって,総合満足度に与える影響が大きい要素を調べたところ,日本人は「飲食」が重要であることが分かりました.飲食の満足度を上げていくためには,観光客にとっての選択肢を増えるように情報発信をしていくことというのが模範的な回答ですが,実際に満足度を押し下げているのは観光地にありがちなホスピタリティゼロの店員の存在です.

接客の研修や表彰をしても効果は限定的だと思うので,みんなで頑張って口コミを投稿して,同じ被害に合う人を減らすのが早いんじゃなかなと思います.(投げやりですみません)

満を持してネットプロモータースコア

ようやく,究極の指標「NPS」を発表することができました.NPSについては,以下の記事をご覧ください.

今回のプレスでは,日本人と外国人のNPSの四半期推移を掲載しています.日本人観光客は,混雑に対する不満があったり外国人客の勢いに押されたりで数が減っていますが,着実にロイヤリティの高い人が増える傾向にあります.

いっぽうで,外国人は2015年から頭打ちとなっています.個人的にはこれが一番重大な情報だと思っています.この天井を突き破るための穴がどこかにあるのか,無いとなると市場は成熟モードに入ってしまうので,投資よりもコストカットを視野に入れた戦略に切り替えていかなければならなくなります.

すでに京都市内では民泊業者の淘汰が始まっていますが,インバウンド関連の倒産や不良債権の処理が増えてきたときのに,勝ち残った事業者へスムーズに統合されていくような仕掛けが必要になるんじゃないかな,と思います.

 

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正直まだまだ序の口なので,もっと施策に直結するようなテーマを絞った分析をしていきたいと思っています.色々ご意見いただければ今後の分析に反映していきたいので,ご意見・ご感想お待ちしております.

京都市内の人気撮影スポットをヒートマップにしてみた

先日Facebookのほうで,どこが混雑しているかがAgoop社の「混雑マップ」で見られるようになったことをシェアしました.混んでいる時間帯を避けるためにうまく活用できれば面白いです.

観光地選びをより最適化するためには,混雑だけでなく,その観光地がどれくらい見ごたえがあるかも同時に把握できればいいのになぁと思って色々調べていたら,北大でこういう研究がされているということについても投稿しました.

前々から,SNSで投稿されたデータの位置情報を調べて,どこが人気スポットなのか分析してみたいなぁと思ってところだったので,こういう研究は非常に興味深いです.

そんなこと思っていたら,大学の研究室の先輩が「だったら,これ使ってみれば?」と,超絶便利なツールを紹介してくれました!その名も,Flickrから大量の画像のデータを持ってくるツールです.

 場所と期間を指定したら,写真共有SNSで有名なFlickrInstagramスマホ特化やけど,Flickrはカメラユーザーが多い)から,データを根こそぎ吸い上げるというもの.対象となるデータが膨大なので,ダウンロードするのに結構時間はかかるけど,これは画期的なツールです.

データを集めて,QGIS(無料の地図編集ソフト)をインストールして,ヒートマップの作り方調べて,ざっくり作ってみた結果が以下の通り.上記のツールやQGISの使い方は,別記事でまとめたいと思います.

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データ対象期間は2017/4/1~2017/8/27.投稿数は11415サンプル.これを「いいね!」の数で重み付けして等間隔ヒートマップ化しました.赤いところほど,投稿数が多い,または人気の高い投稿が多いスポットということになります.

といった実態が,半日の作業で把握できるようになります.これをもとに,月別,投稿者の居住地別,スポット別などで集計分析することで,かなり面白いインサイトを得られるのではないかと思います.

もう,位置情報系のビッグデータを買う必要ないですね.

宿泊税の使いみち

これもNewsPicksからの転載です.最近話題の京都市における宿泊税について.

www.sankeibiz.jp

 

ざっと年間20億,肝心なのは何に使うか.

トイレ設置とか電線地中化とか目に見えるハード整備は分かりやすいけど,そういう結果が想定しやすくて予算要求しやすい事業は既存の財源を充てればいいんじゃないかと思います.ハード整備したところで,混雑が解消したり,市民生活が激的に改善するとも思えませんし,むしろその整備したエリアへ需要がより一層集中するだけな気がします.

なので,新しい財源は成果が出るかどうか想定がしづらく手を出せてこなかったソフト事業に充てて欲しいです.魅力を開発・発信して付加価値を高めたり,需要を平準化するための誘導を行ったりすることで,少ない客数でも地域を維持できるように工夫することが,一番重要な取組だと思います.

あと,100円固定なのはたしかに気になりますが,末端の簡易宿所まで売上把握するためにかかる徴税コストの問題とか,高級宿泊施設に対する配慮とか,色々理由があるんじゃないかと思います.100円程度に影響を受けるような価格弾力性の高い旅行者よりも,そんなの気にしない富裕層に来て欲しい,というふうに考えられなくもないです.(税制の逆進性をうまく利用している)

もっと税額を増やして需要を抑制すれば混雑が解消するという人が多いようですが,いたずらに課税しても競争原理を阻害するだけなので,僕はあまり賛成できません.あくまでも,事業者の判断によって客室単価や入場料などが上がることで需要が調整されるようにするべきで,そのための判断材料を提供したり,付加価値を上げるための支援に必要な分だけ徴税できれば十分です.

それがどの程度なのかという議論が先にあるべきで,税だけで市場をコントロールしようという発想は,観光地の魅力の源泉を枯らすことに繋がります.

時代に合わせて変わりうる仕組みは「伝統」ではない

下記の記事に対してNews Picksでコメント付けました.はてなブログとは連携していない(WEBサービスとしてやや競合している)ので,面倒ですがこちらにも再投稿します.

dot.asahi.com

(以下,コメント)

価値交換の基準をブラックボックスにして,お互いの信用をテコにすることで付加価値を生むハイコンテキストなビジネスモデルもあれば,全て明確に値付けをするローコンテキストなビジネスモデルもあるわけで.

ハイコンテキストモデルにロイヤリティを持つ人もいれば,ローコンテキストモデルにロイヤリティを持つ人もいて,必ずしもカニバるとは限らない。たしかに江戸時代以降積み上げられてきた前者のマーケットの縮小は,短期的には仏教を弱体化させる可能性はあるけど、その分新たなマーケットは形成されるはずで、人間の信仰心のポテンシャルが損なわれるとも限りません。

協調してブランドを形成してきた同業者からしてみると,市場を荒らされて不利益を被るという問題はあるかもしれないけれども,仏教の普遍的価値ってそんなもので揺らぐほど脆弱では無いんじゃないでしょうか.

信仰をなにか良くわからないありがたいものとしてブランド化することで,信徒の心と向き合うことをサボってきたビジネスモデルよりも,生きていく上でそれがなぜ必要なのかをきちんと説明するという宗教本来の目的を追求しているほうへ評価が集まることは、別に不思議なことではないと思います。

国籍別の国内宿泊先月次ランキング(ホテル統計を強化しました)

京都市観光協会では,毎月ホテル統計を発表しているのをご存知でしょうか?

この手の統計は,観光庁が公表している「宿泊旅行統計」が有名ですが,「宿泊旅行統計」は都道府県単位までの細かさでしか地域別の集計ができないという制約があります.京都市観光協会のホテル統計では,独自に市内のホテルに調査を依頼することで,市単位での宿泊客数の推計を行っています.自治体単位でこれをやってるのは,京都だけです多分.

2017年6月および上半期分の結果が先日リリースされたのですが,今回からちょっぴりバージョンアップしています.

広報発表「平成29年(2017年)6月及び上半期の外国人客宿泊状況調査について」
https://www.kyokanko.or.jp/kaiin/image/pdf/info170802.pdf

該当部分はP10,11で,経済産業省「観光予報プラットフォーム」のデータを用いて,国籍・地域別の旅行先の分布や,予約時期の分布を集計しています.手が回っていなくてまだPDFでしか出せていませんが,そのうちホームページ改修して使いやすいインターフェースで提供できるようにしたいと思っているので,ご期待ください.

「観光予報プラットフォーム」は,誰でも頑張れば集計できるオープンデータなので,こっそりGoogle Drive経由で埋め込んだデータを置いておきますね.上記の資料は6月分のデータしか掲載していませんが,こちらは上半期分のデータも含めています.

 

データを見る場合の注意点として,東京都特別区は23区別の集計となっているので,合算すれば1位になるはずのところ,下位にランキングされてしまっています.

また,宿泊客数の絶対規模は,国の宿泊旅行統計と必ずしも一致していません.推計に用いているデータや,拡大処理の考え方が異なるためだと思われますが,観光予報プラットフォームの推計方法はブラックボックスになっているので,とりあえずそのままの数値を掲載しています.宿泊先の順位の変動など,相対的な傾向を評価には使えます.

中国

  • 大阪,京都の2強.
  • 1~2月の春節シーズンの需要が強い.
  • 冬場は北海道も強い.
  • 那覇も以外と冬場のほうが多い.
  • 京都が相対的に存在感を増すのは3~4月.

台湾

  • 中国と比べると季節感格差が小さく,春節よりも桜シーズンのほうが多い.
  • 京都市台東区にすら負けており,東京への需要が強いことが分かる.浦安市も上位であることから,ディズニーランドの人気が高いことも影響していると考えられる.国内旅行に近い感覚で旅行されていると言っても良さそう.
  • 夏場になると沖縄の人気も高くなる.地理的に近いことも影響しているだろう.

香港

  • 中華圏であるが,欧米型の需要パターンに近い.
  • 京都市はベスト5にすら入らないこともあり,他の国に比べると人気がない.
  • 台湾同様,夏場は沖縄が人気.
  • 那覇はなぜか春に多くなる.トランジットで宿泊か?

韓国

  • 昨年低調だった韓国は,今年に入って持ち直してきているため(為替の影響?対中関係悪化による需要シフト?),季節変動の評価には注意が必要.
  • 地理的に,九州・沖縄の需要が強い.
  • おそらく,京都は秋頃に存在感が強くなる.
  • このデータは,韓国客に多い日帰り客が含まれていないので注意.

アメリカ

  • 4月前後(イースター✕桜)に需要が集中.
  • 伝統文化に対するニーズの強い米国市場は,京都へのロイヤリティが圧倒的.
  • 冬場は,訪日市場規模そのものを拡大する努力が必要だが,東京へのビジネス需要は安定してるように見えるので,京都にも寄ってもらえるような仕掛けは有効となる可能性がある.

英仏独西

  • アメリカと似ているが,北海道や浦安市がランク外となっており,廿日市(広島)が上位にいる点が特徴的.

オーストラリア

  • スキー需要があるので,欧米と比べると,冬場の需要の落ち込みが少ない.
  • 東京,大阪の需要が強いのも,特徴的.(都市的な観光を好む?あるいは,ジェットスターの深夜便のために,空港に近いところで宿泊している?)

こんなところですかね。めっちゃ活用してるので,経産省は頑張って予算継続して欲しいです。今後もデータ更新していきますので乞うご期待!