競争に勝ち残るDMOとは/旅行業界の垂直統合

前々回の記事で、DMOの競争について書きました。
今日は、旅行業界の構造変化の解説もあわせて、競争に勝ち残ったDMOの最終的な役割について書いてみました。

発地側主導の業界構造

旅行業界は「着地側」と「発地側」に分けて考えることが一般的です。そして、従来の旅行業界は、旅行会社がお客さんを集めてきて観光地へ送客するという、圧倒的に「発地側」主導の市場でした。なぜなら、旅行者ひとりひとりが調べられる観光地の情報に限界があり、旅行会社が作るツアーを利用したほうが便利だったからです。

旅行会社はどうやって情報を集めているかというと、それぞれの地域にいるランドオペレータという業者を使っています。ランドオペレータは、その地域の宿やバスなどのチケット手配に精通している会社です。

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発地側から着地側へ

いま、この業界構造が変わりつつあります。インターネットや携帯端末の発達にともない、旅行者ひとりひとりが調べることができる情報が増えたため、旅行会社を通さなくても着地側の情報に直にアクセスできるようになってきたのです。つまり、着地側主導の市場に変わりつつあると言えます。(旅行業界に限らずに言えば、売り手市場から買い手市場になっているということです)

で、地域としてプロモーションをがんばろうということで、地域の事業者をまとめる観光協会の役割が見直されつつあるのが、いまのDMOの議論につながっています。

そうなってくると、旅行会社としては具合が悪いですよね。旅行者が何を考えているのかを把握して、なんとかして旅行者をつなぎとめる必要が増してきます。そこで彼らは新たな動きに出ることになります。

業界の垂直統合

顧客情報を収集するためには、徹底的に市場を囲い込む必要があります。航空業界のマイレージ制度はその典型例のひとつですが、旅行会社の場合はランドオペレータの買収などの業界垂直統合に現れています。

マイナビニュース「旅行業界でM&Aが活発化 「オンライン」「旅ナカ」に熱視線

これまで別会社としてその都度外注していたランドオペレータを子会社として抱え込むことで、顧客のデータを一元的に管理できるようになることはもちろん、競合他社がそのランドオペレータを利用した際には他社が抱える顧客の情報まで把握することができるので、市場シェアの拡大にもつなげることができます。

何十年も前に自動車業界で起こったことが、旅行業界においても進んでいるということです。いま航空業界で起こっている3大アライアンス間の競争というスケールにまでは至らないにしても、先日の記事で書いた、旅行会社のDMO化と競争の話につながっていくことになります。

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競争に勝ち残るDMOとは

発地側に軸足を置いた旅行会社としてのDMOにせよ、着地側に軸足を置いた観光協会としてのDMOにせよ、ひとつ抜け出た存在となるために必要な要素はなんでしょうか。

それはおそらく、「着地側の住民とのネットワーク」「政策立案能力」です。

住民とのネットワークが重要なのは、言うまでもなく、観光地での混雑が住民生活に与える影響が無視できなくなっているためです。これまで旅行市場の外部とみなされていた地域住民が、市場に影響を与える存在となりつつあります。旅行業界の構造変化が、旅行者のニーズ把握の必要性によって引き起こされたのと一緒で、あらたに市場に変化をもたらすステークホルダーのニーズに対応できるところが、先手を取ることになるでしょう。

そして、その住民と最も近い関係にあるのが、行政組織です。行政の施策に対応した事業展開を意識し、行政に対して政策提言ができるくらいのノウハウ・影響力を持つことが、DMO競争を勝ち残るための鍵といってもよいでしょう。

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僕は基本的に「小さな政府」のほうが好きなので、行政の観光課は条例・徴税・インフラ整備に限定していくのが良いと思っています。もちろん、DMOへ何人か出向させておく必要はありますが、いつまでも行政がイベント企画したりチラシ作ったりするくらいなら、社会の仕組みを劇的に変えるようなルールやテクノロジーに合わせた法整備に知恵を使うべきではないでしょうか。

足元をすくわれないように

より難しいことに取り組んでいく一方で、これまでどおり観光関連の事業者(図の下に並んでいるプレイヤー)のコーディネートや、新たな観光資源の発掘を疎かにするわけにはいきません。案内所のように、地域や旅行者についての情報を蓄積できる場所を抑えておくことも重要です。

場合によっては、DMOのなかの従来型の事業を切り離して子会社化するような動きも出てくるかもしれません。あるいは、それを凌駕するような優れたソーシャルビジネスが台頭するとも考えられます。それが、まさしくDMCと呼ばれる存在であり、これらも垂直統合の枠組みのなかで重要な位置を占めることになるでしょう。

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なんか、こんなダイナミックな構造変化に観光協会みたいな硬直的な組織がついていけないように思えてなりませんが、行政との近さだけは間違いなく有利なので、その強みを活かせたところは成功するんじゃないかとも思います。