ファシリテーション・グラフィックが面白い件

先日,地域課題解決のためのワークショップに参加しました.目的は,

  • ワークショップの手法を学ぶこと
  • 人脈形成
  • アイディアをなるべく形にしてみたい

といったところです.

今日は,学んだことを備忘のために書いておこうと思います.

マンダラート

地域課題のブレインストーミングの手法としては,KJ法が有名だと思いますが,今回はマンダラートというのをやりました.紙を3✕3の9分割にして,中央にキーワードを書き,周囲に連想ワードを3分以内に書く.連想ワードのなかから重要だと思うものを選び,また同じように連想する.マインドマップと考え方は同じですね.

マシュマロ・チャレンジ

チームメンバーの前に並べられたのは,ハサミ,タコ糸,パスタ,テープ(画面外),そしてマシュマロ.これらを使って,15分くらいのあいだになるべくマシュマロを高い位置に固定する,というゲーム.

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結構うまく組み立てられてると思ってたのに,最後マシュマロの重みに耐えきれず崩壊(あいにく,写真は無い).ポイントは,早めにマシュマロの重みを確認して,最終形に必要な強度や構造を考えるということ.

時間をかけて100%の成果を狙うのではなく,60%くらいの完成度のものを作ってから軌道修正していく,というプロトタイピングの考え方を体験するための手法が,このマシュマロ・チャレンジということです.

グラフィック・レコーディング

今回のワークショップでは,その内容がずっと模造紙にイラストで記録されていました.議論や発表の結果を可視化することで,齟齬を解消したり脱線を回避したり,第3者にわかりやすく結果を共有することができます.

 

議事録を素早く的確に作成する能力は,コンサル業界で身につけることができました.ある程度時間をかければ,デザイナーほどじゃないけどグラフィカルに仕上げるのも得意なので,こうした技術にはとても関心があります.

前職は打合せスペースにホワイトボードがあったので,図式化しながら意見出しして,最後に写真で撮っておくことが多かったのに,今はそういう環境無いのが残念,というか問題かも...自分でボード買って持っていこうかな・・・

 

ファシリテーション・グラフィック

グラフィック・レコーディングのさらなる進化系として,議論の司会をしながら画を描いていくのが,ファシリテーション・グラフィックです.シンポジウムとかでパネルディスカッションするときに,議論の内容を描いてスクリーンに映してくれれば良いのにと何度も思ったことがあるので,今後これが専門職として認知されるようになればいいのにな,と思います.

www.slideshare.net

 

ちなみに,今回自分で描いたなんちゃって絵コンテがこちら.議論を可視化したわけではないので,グラフィック・レコーディングやファシリテーション・グラフィックとまではいかないけど,イメージの共有には絶大な効果を発揮すると実感.

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まとめ

アイディアをアプリケーションソフトにすることを体験しにワークショップに参加したけど,それ以前にアイディアを図に落として合意形成する手法が面白かった.データ分析はほどほどにしてこういうスキルトレーニングをしたほうが,重宝される人材になれそう.

CT Planalyzerが凄い件(ツーリズムEXPO2017の感想③)

Google MapsとかNAVITIMEとか,ルート検索には事欠かない世の中になって久しくなりました.でも,旅行するときのルートは,短くて早ければいいわけではないというのが難しいところ.

ガイドブックを見て自分で計画を立てたり,あえて何も決めず迷ってみたりすることも,旅行の醍醐味だったりするので,これを考慮したルート案内機能の開発は,かなり奥が深いです.

そんな大きな課題に,以前から首都大と東大の先生がチャレンジしていて,数年前のツーリズムEXPOから「CT Planner」というアプリケーションを発表されていました.利用できるエリアは有名な観光地に限られますが,目的や気分に合わせてルートを提案してくれる優れものです.

このシステムの特徴は,実際の検索結果や移動データをもとにルートを推薦しているわけではなく,各観光スポットに「自然」「アート」といったパラメータを与えておき,検索条件に適した組み合わせを計算して導き出しているという点です.つまり,GPSとかでデータを集めなくても,頑張って観光地に関するデータを入力していけば,どの地域でも作れるはず,ということです.

一般の旅行者にとってはややマニアックな感じもするので,どちらかというと旅行企画担当者や,旅行雑誌編集者なんかに利用してもらうことを想定しているようです.ぜひ,みなさんも遊んでみてください.

 

CT Plannerの裏情報

そして今回のツーリズムEXPOでは,これの詳細版である「CT Planalyzer」が発表されていました.CT Planalyzerでは,推奨ルート以外のルートも表示され,観光スポットごとの関係性の強さなども確認することができます.まさに,CT Plannerの結果を分析するためのツールです.

データをダウンロードして分析するのは研究者くらいでしょうけど,ルートのおすすめ度合いによって色の濃さが変わって表示されるのが分かりやすくて,インターフェースとしては優秀だな,と思います.

 

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こういう見せ方をすることで「そこまで有名じゃないけど,ちょっと逸れればこういう観光スポットもあるのか」ということに気づくことができます.混雑を避けて,自分だけの観光ルートを作りたいという方には,ぜひ使いこなしてみて欲しいです.

観光イメージ動画の投資対効果について(ツーリズムEXPO2017の感想②)

 

国内で最も広いエリアを対象としている「せとうちDMO」は,DMOの国内事例としてよく取り上げられています.その理由は,僕の認識では3つあります.

  • これまで,当該エリアにまたがってそれなりの活動する組織は無かったので,何をやるにしても初めてのことが多く,比較的しがらみも少ないので画を描きやすかったということ.
  • 観光事業者を支援するファンドを創設したこと.従来の観光協会のような組織では発想されなかったような投資型のビジネスモデルが導入された典型例です.ファンドなんて世の中に他にも色々とありますが,投資先の判断を確実に行うためには,観光分野に特化したマーケティングを行うことが必要です.そのためにはDMOとしてのマーケティング活動が必要,という本質を明らかにした点が評価されているんだと思います.
  • プロモーションの手段として動画広告を導入し,マーケティング指標の可視化のお手本を忠実にこなしたこと.組織のあり方とかごちゃごちゃ議論する暇があったら,とっととマーケティングするべきってことです.

で,その「せとうちDMO」でのマーケティング事例の講演が,ツーリズムEXPOの会場で行われていたので聞いてきました.

まずは認知.そのための動画配信.

商品を売ったり,旅行者に来てもらうためには,まずはとにかく認知をしてもらうこと,というのがプロモーションの王道です.とくに,瀬戸内海というエリアは外国人にほとんど知られていないので,とにかく知ってもらうための宣伝から始めなければなりません.

とはいえ,情報に溢れた現代社会では生半可な広告を打ってもすぐに埋もれてしまいます.そこで,せとうちDMOでは補助金を活用して瀬戸内エリアのイメージ動画を作成しました.

興味深かったのは,観光地に対する旅行者の態度変容にあわせて,動画の内容を3段階に分けていたことです.

  • イメージ:そもそも全く日本や瀬戸内海のことを知らない人向け
  • アクティビティ:瀬戸内でどんな体験ができるのか
  • 手段検討:アクセスにかかる時間や料金などの具体的な情報

また,旅行者の居住地や文化によって動画の趣味趣向が異なることを想定して,上記の3段階の内容を,アップテンポな雰囲気と落ち着いた雰囲気の2パターン用意し,合計で6本の動画が作成されていました.

 

www.youtube.com

 

ゴールはホームページでの予約行動

この動画をYoutubeFacebookで配信することで,DMOのホームページにアクセスしてもらい,航空チケットの予約をしてもらうことが彼らの狙いでした.収益が発生するところへ出口を設定しておくこと,そのためには自社ホームページという受け皿をまずはしっかり作ることが重要だということですね.

配信を行った結果は,当然「イメージ」段階での動画の視聴者数が最も多く,アジアはアップテンポ,欧米は落ち着いた雰囲気が好まれる傾向となっていました.ホームページへの流入率は0.2%~0.3%程度で,アジアのほうが高い傾向にあります.

台湾への配信では,広告費46万円に対して最終的に予約ページにたどり着いた人が25人だったので,一人当たりの経費は18,000円ということになります.もちろん,この25人全員がせとうちエリアに来たとは限りませんし,後日他の予約サイトを利用して来日する人もいるはずなので,これだけで評価をすることは難しいです.しかも,動画の作成にかかった経費が含まれていないので,おそらく投資対効果はマイナスだと思います.

それでも,そういった結果がまず得られたということが,DMOに必要だと言われているPDCAサイクルを回していくことのきっかけにはなるはずなので,他のDMOは見習わなければならないんじゃないかと思います.

 

DMOによる宣伝は無力なのか?

ちなみに,行政やDMOがなけなしの費用でプロモーションを実施したところで,航空会社やホテル,予約サイト等が莫大なお金をかけて行うプロモーションによって,旅行者の意識は決まってしまうという意見があります.

まぁ,それはそうなんだろうなと思います.京都への誘客も,ほとんどはJRによるプロモーションのおかげです.なので,DMOとしてはそういった交通事業者とうまくタイアップをして,彼らの予算を活用したプロモーションを行っていくのが無難なんだと思います.ただ,それではいつまでたっても後手に回ってしまいます.

なんとか旅行者の需要を刺激して,交通事業者に振り向いてもらうような仕掛けは,ないわけでは無いです.インフルエンサーを活用した口コミ波及は,その手段のひとつ,というか今はこれしか思いつきません(笑).適切な例かはわかりませんが,伏見稲荷大社が一大観光スポットになったのは,交通事業者によるプロモーションではなくSNSによる口コミのおかげであったことを考えれば,可能性は少なからずあると思います.

ひとつひとつの可能性は低くても,「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」ということで,DMOとしてこういった現象を意図的に仕掛られるような仕組みを作って,航空機の座席数やホテルの客室数というボトルネックを無理やりこじ開けるような需要を生み出す仕事がしたいなぁ,と思う今日このごろ.

観光地のVR宣伝について(ツーリズムEXPO2017の感想①)

いまさらですが,行ってきたので感想をば.

ご当地袋からVRへ

数年前は,ゆるキャラをモチーフにしたA1サイズ(594mm✕841mm)くらいの紙バッグが,自治体ブースの宣伝ツールとしてたくさん配られてました.ツーリズムEXPOでは,毎回嫌というほどチラシやパンフレットを配られることで両手が塞がってしまうので,それを収納するツールとして重宝します.

http://blog.prism-shikoku.com/wp-content/uploads/2015/03/DSC_04721.JPG

出典:PRプランナー 妹尾浩二の日記

自治体ごとに様々なデザインを施しているので,収集癖のある人にとっては他人が持っている袋を見つけることで,「あの地域のブースにも行かなきゃ!」となって誘客につながったりもしてたと思います.また,この袋を持った人が自宅に帰るまでのあいだにも,街行く人の目に触れるわけなので,歩く広告として機能していたわけです.

ところが,今年のツーリズムEXPOではこうした宣伝ツールは全く見かけませんでした.正直,チラシを自前の鞄にしまわなければならなくなってしまったので残念です.その代わりに台頭していたのが,今をときめくVR体験.みんなゴーグルを装着している光景は,なんだかシュール.

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出典:engadget

VRを使えば良いというもんでもない

百聞は一見に如かずということで,こうした技術の活用には一定の効果はあるんでしょうけど,いくつか問題点があるんじゃないかなと思いました.

  • まず,僕のように眼鏡かけてる人にとっては,眼鏡非対応のゴーグルは面倒くさいということ.
  • あと,ゴーグルをしている人がいまどの景色を見ているかが,スタッフも含めた周囲の人と共有しにくいということ.スタッフがしっかりとフォローして話しかけてくれれば楽しめるけど,他の来訪者対応に追われてしまっていてVRゴーグルだけが置かれている状態だと,独りで遊びに来た人間にとってはちょっと寂しいかもです.風景だけでなく,画面上や音声で解説を流したり,ストーリー性を持たせて場面転換させるような仕掛を入れたりするところまでできればいいのにな,と思いました.景色の美しさを知ってもらうことを入り口にすることは大事やけど,その先を用意しておかないと,観光資源はすぐに消費されて終わってしまうという問題の象徴的な現場だったとも言えます.
  • そして,VRコンテンツにはさきほど紹介した「ご当地袋」のような広告効果は無いということ.ブースに来てゴーグルを覗いてくれた人にしか,その価値を100%で理解してもらえないというのは,大きな違いです.もし,「ご当地袋」の予算を削ってVRへ回しているのだとしたら,ただただ業者に踊らされて流行りものに飛びついているだけで,どこの自治体も広告戦略を持ててないんじゃないかなぁという印象を持ちます.

そう思うと,VRゴーグルで景色を見てもらうよりも,手持ちのスマホに360度画像をダウンロードしてもらったほうがいいんじゃないかと思います.Youtubeで見れるので,アプリ入れなくてもQRコードだけで誘導できるはずで,予算も大幅に圧縮できるはずです.

たしかに臨場感ではゴーグルに劣ってしまいますが,見えている景色を周囲の人と共有できるし,帰宅後も他人へシェアできるので情報の拡散が期待されます.どれくらいの人が閲覧したのかのデータもとれるので,マーケティング的も有効です.

あと,眼鏡したままでも見れる.

 

VRの真骨頂は空想の現実化

余談.

これまでにも何度か主張してきたことですが,僕はいつか「誰かの夢を旅できる時代」が来ると思っています.VRはそのための技術であって,いま使われているような現実空間を遠隔で体験するという使われ方は,発展途上での応用でしかありません.現実には無い世界が創造されることで,観光市場は爆発的に広がります.土地がなくても,ディズニーランドみたいなテーマパークを電脳空間上に無数に作ることができるといえば,そのインパクトの大きさは想像できるんじゃないかと思います.

現実世界にあるものをアピールするための手段としてVRをうまく活用することを考えることもいいんですが,むしろVRは魅力的な観光資源を新たに創り出すためのツールとして考えたほうが,生産的ではないでしょうか.

研究と経営の狭間で

どれだけデータの出典や前提条件を明示して,統計的な有意性の有無や,予測なのか目標設定なのかを説明したとしても,データが目に入ってくると自分の持論を補強するためだけにしか解釈しようとしない人はどうしても現れるようです.

そういうタイプの人ほど,そうやって自己主張を続けることで他者を巻き込み,ビジネスの世界で成功してきたような人だったりするので,周囲への影響力も強く,偏った解釈が独り歩きしてしまうんじゃないかと感じます.

仮に自分の業界のサービス満足度が低いからと行って,自社の事業の満足度が低いことを意味しているわけではないし,サービス内容に自信があるならそれを業界全体に広めて底上げしていこうと考えてもらえるように,伝え方を工夫していかないと危ういなとも思いました.

ビジネスに役立ててもらうために,マーケティングデータを提供していくことが地域のためになると信じてやってきましたが,「データ活用の知識がそもそも無い」というのとは異なる方向でリテラシーの問題が発生しうる,というのは盲点でした.それだけ,関心の高いテーマであるということは悪いことではないんですけどね.

でも,こんなことで足踏みをしないといけないような地域からは,本当に必要なアイデアが生まれてくるのに物凄く時間がかかってしまうので,自分たちの実力で地域振興ができているという段階へはたどり着けないんじゃないかな,と心配になってしまいます.実際,話題になっているような地域は,足りないところを受け入れて,前向きにできることから取り組んでいるんじゃないかと思います.

アカデミックの世界であれば,より良い方法の提案や,なんで意見が合わないのかの理由を突き止めようという方向に議論が進むのですが,そうはならず論破することが目的になってしまいがちなのをどのようにコントロールするかが,研究と経営の狭間に立たされる立場の難しさなのかもしれません(それが高尚なことだとは思えないのが残念なところ・・・)

デービッド・アトキンソンが出した数字と,そのへんのコンサルタントが弾いた数字とでは,同じ手法,同じ結果であっても受け止められ方が違ってしまうのは,しょうがないことなんでしょうかね.まぁ,ぐうの音も出ないほどの理論と,ものすごく分かりやすい解説をするだけの実力をつければいいじゃない,と言われればそれまでなので,自分の未熟さを受け入れなければならないですね.

とはいえ,拙いデータからでもなんとか真実を見出して,事業の成功確率を上げていこうと前向きに考えてくれる人のほうが多数派だと信じているので,その期待に沿えるように地道な発信は続けていきたいと思います.

 

観光客数の目標値の作り方

京都観光総合調査を使ったざっくり分析というミッション(下記参照)をひとまず終え,次はDMOとしての戦略を作りたいな,と思っています.そこで今回は,頭の体操のために,戦略を作る上で欠かせない目標設定を試算してみたいと思います.

 

まず前提として,現在の国の目標は以下のとおりです.この数字の根拠についてきちんとした説明は見かけたことがありませんが,たしか日本最大の輸出産業である自動車産業の規模が15兆円くらいだったはずなので,観光をこれに匹敵する産業にしようという発想なのではないかと思います.そうすることで,GDPを現在の500兆から600兆へ押し上げようということみたいです.変動相場制においては輸出を頑張ってもGDPは相殺されるなんて話を聞いたこともありますが,そうだとしても副次的な効果はあるでしょうし,本題から逸れてしまうのでスルーしておきます.

 

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基準はGRP(域内総生産)

京都市の目標値を設定するうえでも,GDPを基準にすることにします.国ではGDP国内総生産)と呼びますが,地域の場合はGRP(域内総生産)と呼びます.京都市GRPは2年遅れくらいで毎年算出されており,21世紀に入ってからは横ばいが続いています.これを市内人口で割った一人当たりGRPも横ばいです.(実質GDPで評価するべき,という話はスルーで)

 

ただ,これからは人口が減少し始めるのでGRPも減少していくと考えられます.京都市の人口推計値を用い,一人当たりGRPは年率0.2%でわずかに成長と仮定して推計した結果,以下のようになりす.ここで成長率を0.2%としたのは辻褄合わせによるものです.一応,2035年になっても一人当たりGRPは427万円で,2007年の431万円を超えないということで,控えめな設定にはなっています.

 

2015年に約6.06兆円あったGRPが,2030年には5.68兆円にまで減るので,いまの経済規模を維持しようと思ったら4000億円くらいの追加が必要ということになります.

一人当たりGRPが増えるなら経済規模が小さくなってもいいんじゃないの?という疑問もあるかもしれませんが,そんなこと言い始めると人口1人になってもいいってことになってしまいます.京都という街にとってどのくらいの経済規模が最適なのかには議論の余地がありますが,とりあえず現状の経済規模を維持することを目標として計算を進めることにします.

 

減少するGRPを埋め合わせるために必要な観光消費

不足するGRP4000億円を稼ぐためには,観光消費額を4000億円増やせばいいという訳ではありません.観光客によって地域にお金が落ちても,それがそのまま域外に流出してしまえばGRPは増えません.

たとえば,観光客に1000円のお土産を売るとして,原材料を300円で市外から調達した場合,その300円は域外流出,残りの700円が販売スタッフや加工する職人の人件費などとして域内の付加価値になる,といったイメージです.

この比率を計算するためには,大規模な調査を行って「産業連関表」というデータを作らないといけないのですが,あいにく京都市では最新の産業連関表(H23調査分)がまだ公表されていません.調査時点から5年経ってしまってるし,震災の影響を受けている可能性もあるので,使えたとしても微妙なデータなんですけどね笑

無いものは無いでしょうがないので,今回は他の地域のデータを参考にしてみることにします.ざっと検索して見つかった,地域単位で観光消費から付加価値額を算出している事例を下表にまとめたところ,だいたい消費額の7割前後が付加価値となっているようです.そこで,京都市も消費額の70%が付加価値となるものと仮定することにします. 

 

GRPを埋め合わせるために必要な消費額を逆算してやると,以下のようになります.だいたい,いま京都市の観光消費額が1.0兆円くらいですが,2020年には1.2兆円,2030年には1.5兆円くらいまで増やさないといけない,という感じです.

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日本人客の減少は避けられない

人口が減少するのは京都市だけではなく全国的な現象なので,当然京都市を訪れる日本人も減少することが予想されます.京都市への観光客だけが都合よく増えるなんてことは起こりえません.国立社会保障・人口問題研究所によると,2030年の人口は2015年の93.5%まで減少する見通しとなっています.日帰と宿泊の比率は変わらないとすると,以下のような感じでグングン減っていきます.

 

 人数の減少は避けられないとなると,できることはただひとつ.消費単価を上げていくことです.

消費単価の設定

消費に関するデータは少ないので,思い切って数字を作るしかありません.

日本人の消費単価は,旅行観光消費動向調査(2015年)における京都府を訪問した人の消費単価を利用しました.これに観光客数を乗じると京都市の消費額を超えてしまうので,コントロールトータル(合計金額が一致するように按分しなおす処理のこと)で調整しています.

外国人のほうは,この記事の冒頭にリンクを張ったプレスリリース上で算出した値を用いています.外国人一人当たり滞在1日あたりの単価が15,875円で,平均泊数が2泊なので滞在は3日だとして,15,875 ✕ 3 = 47,625円としました.訪日客の平均が17万円くらいだったはずなので,京都市における消費額としては違和感の無い数字だと思います.

文章だけだと分かりにくいので,計算の流れを図に整理してみました.

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この消費単価を上げるほど,今後呼ばなければならない人数を抑えることができます.ここは違和感のある数字が出てこないように総合的な判断をした結果(笑),以下のとおり設定しました.

  • 外国人 宿泊客 2,000円up/年
  • 外国人 日帰客    200円up/年
  • 日本人 宿泊客 1,000円up/年
  • 日本人 日帰客    100円up/年

消費単価が上がればそれほど混雑は悪化しない

 以上の結果をもとに,2035年までの予測を行った結果,以下のようになりました.消費単価がうまく上がれば,2015年に5,684万人だった入込客数は,2020年には5,840万人,その後も横ばいという感じです.

逆に言うと,単価を上げることができなかった場合,京都市の経済規模の縮小を受け入れるか,客が来すぎて混雑問題が悪化することを許容するか(ホテル増やしたり,需要分散である程度カバーできるかもですが),ということになってしまいます.

京都市の人口推計の起点が2015年ではなく2010年の人口なので,変化量が不自然なところがありますが,多めに見てください笑

 

 

まとめ

ある程度規模の大きい自治体でないと手に入らないデータを使った部分もありますが,ほとんどは公表データを組み合わせつつ仮定値を挟むことで,他の地域でもこんな感じで目標値を作ることは可能です.

大事なのは,

  • GRPの維持という究極目標に紐付ける
  • 日本人・外国人,宿泊・日帰,単価・人数といった区分に分解して,
    不自然な数値が出ないように調整する

ということです.多少強引でも各数値が連動するようにしておかないと,目標値に届かなったときの原因を解釈するのが難しくなり,目標値がモチベーションを上げるためだけのただの目安になってしまいます.(ほとんどの地域で掲げられている目標が,まさにこの状態).

まだ外に出せてない数値なども使いつつ,今回の試算の精度を高めて,近いうちにもう一発成果を出せるよう頑張ろう.

分析結果がプレスリリースに載りました

おかげさまで,これまで分析してきたことの一部が市役所のプレスリリースに載りました.

京都市:入洛観光客の延べ宿泊客数推計及び京都観光総合調査データを活用した分析結果について

延べ泊数に関する前半部分よりも,旅行者の行動パターンを明らかにする分析に関する後半部分のほうが付加価値の高い仕事なのですが,どうしても世間受けを考えると分かりやすい前半部分のほうにスポットが当たってしまいます.下記の記事で書いた内容に通ずるものがあります.

とくに,ネガティブな分析結果を出すことには偉い人が嫌がるので(批判を回避するために美辞麗句を並べることのほうが,よほど市民に対する説明責任を果たしていないことになると思うので),ここで正直な分析結果を書いておきたいと思います.

滞在期間が長いことのメリット

一応,前半部分についても触れておきたいと思います.前半部分で分かったことは,京都市が平均宿泊日数で全国1,2位を争う水準であるということです.観光庁の宿泊旅行統計を用いた特別集計や,外国人のみの延べ泊数を出している自治体の資料はありますが,市町村独自で推計結果を出したのはおそらく京都市が初めてです.

東京23区や大阪市で推計を行ったら京都市を更に上回る可能性はありますが,ビジネス比率が高いこれらの都市と単純に比較してもあまり意味ないので,やはり京都市のレベルはかなり高いと言っていいでしょう.

日本全体の延べ泊数は約50,000万人泊で,京都市が2,150万人泊(約4.3%)となっています.この4.3%という数字を維持しながら消費単価を上げていくというのが,需要側だけを見る限りはバランスの取れた方針かなと思います.

ちなみに,今回の京都市の数値は,宿泊旅行統計における京都府の数値を上回ってしまっています.これはおそらく,京都市内に簡易宿所が多いことが原因です.小規模宿泊施設は全数調査ができないので,一部の施設に対してランダムで調査を行い,その結果から推定を行うことで誤差が出やすいのです.いずれにしても,国のデータも今回のデータも違法民泊の影響が反映されていないので,絶対値としての評価よりも2年目以降のデータが溜まってきてからの時系列分析が重要です.

滞在期間が長くなることの意味

滞在期間が長くなると,1日あたりの消費額は減る傾向にあります(今回のプレスではこのデータは掲載していませんが).なので,経済効率を考えると滞在期間を短くして,入れ代わり立ち代わり新しい人に来てもらったほうが収支はプラスとなります.とくに,交通事業者は喜ぶでしょう.

ただしそれは,次の来訪者が無尽蔵にやってくるという条件が続かなければ成立しません.人生に1回しか京都訪れないような外国人にはなるべく長く滞在してもらったほうが,近場の人に何度も来てもらうよりもプラスとなる可能性が高いです(リピーターのほうが消費単価が低いことは,プレス結果に掲載しています).

長期滞在者のほうが,地域に対する理解が深まりやすかったり,人気スポット以外にも訪問しやすく混雑解消にも繋がったりと,質的な効果も期待できます.そのあたりも勘案しつつ,ビギナーは長期滞在,リピーターは単価底上げ重視で,最適なバランスを探していくというのが落とし所でしょう.

インフルエンサープロモーション

いよいよ後半部分の話です.まず分かったことは,消費単価が高く,人気エリア以外も訪問してくれるような,京都にとってありがたい旅行者は情報収集に積極的ということです.まぁ,当然の結果ではありますが.

京都観光が量よりも質へシフトしていくうえで,不特定多数を対象にした従来型のプロモーションで情報収集に受け身な人たちを振り向かせるよりも,情報感度の高いインフルエンサーと呼ばれる人たちに刺さるような情報発信をしていくことが有効ということで,今後はクリエイティブなコンテンツを強化していければいいな,という感じです.(現時点で,こういう取組をします,と宣言できないのがつらいところ)

5泊目の壁を乗り越えるには

国籍別に,日本滞在日数と京都滞在日数の関係を集計した結果も掲載していますが,日本滞在期間が伸びても,京都滞在期間は4泊程度で頭打ちとなっています.前述のとおり,滞在期間を伸ばしていくためにはこの壁を乗り越えなければなりません.ベタですが,5泊のモデルプランを作ってみるのが良いかもしれません.

飲食店の接客改善が大事

重回帰分析によって,総合満足度に与える影響が大きい要素を調べたところ,日本人は「飲食」が重要であることが分かりました.飲食の満足度を上げていくためには,観光客にとっての選択肢を増えるように情報発信をしていくことというのが模範的な回答ですが,実際に満足度を押し下げているのは観光地にありがちなホスピタリティゼロの店員の存在です.

接客の研修や表彰をしても効果は限定的だと思うので,みんなで頑張って口コミを投稿して,同じ被害に合う人を減らすのが早いんじゃなかなと思います.(投げやりですみません)

満を持してネットプロモータースコア

ようやく,究極の指標「NPS」を発表することができました.NPSについては,以下の記事をご覧ください.

今回のプレスでは,日本人と外国人のNPSの四半期推移を掲載しています.日本人観光客は,混雑に対する不満があったり外国人客の勢いに押されたりで数が減っていますが,着実にロイヤリティの高い人が増える傾向にあります.

いっぽうで,外国人は2015年から頭打ちとなっています.個人的にはこれが一番重大な情報だと思っています.この天井を突き破るための穴がどこかにあるのか,無いとなると市場は成熟モードに入ってしまうので,投資よりもコストカットを視野に入れた戦略に切り替えていかなければならなくなります.

すでに京都市内では民泊業者の淘汰が始まっていますが,インバウンド関連の倒産や不良債権の処理が増えてきたときのに,勝ち残った事業者へスムーズに統合されていくような仕掛けが必要になるんじゃないかな,と思います.

 

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正直まだまだ序の口なので,もっと施策に直結するようなテーマを絞った分析をしていきたいと思っています.色々ご意見いただければ今後の分析に反映していきたいので,ご意見・ご感想お待ちしております.