持続可能な観光地経営のためのメディア戦略(2)

最近,更新がマンスリーになってしまってます,すいません。
普段のお仕事のほうで,自分のアイディエーション欲が消化されてしまって,執筆にエネルギーが割けていないせいです笑。今回は前記事の続きということで,講演で話した中身を書いていきたいと思います。

戦略とは「性格」である

世に戦略と名のつく資料やプレゼンは無数にありますが,「やりたいことの羅列」だったり,「どのように取り組むかの解説」だったりで,戦略になっていないことがよくあります。

戦略とは,限られた資源や能力を何にどれくらい配分して,自分と競争相手とを差別化するかを示すものです。ゲームでキャラクターの能力を配分するような場面がありますが,人によって攻撃力に全振りしたり,バランスよく配分したり,好みが分かれるところに戦略が宿るのです。

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戦略を考えるとき,まずはこの「攻撃」や「防御」といったパラメータをどのように設定するかが重要です。何でライバルと差別化したいか,という発想で考えれば思いつきやすいかもしれません。

今回は対象が観光とメディアなので,観光客との接点のタイミング(旅マエ or 旅ナカ)という軸と,発信する情報の流動性(ストック or フロー)という軸で,下図のとおり整理してみました。各象限に記載したような取組に,それぞれどれくらいヒトやカネを投入するかを考える,ということになります。

ただし,実際は2軸だけで表現できるほど単純な構造ではないので,1分野に特化しすぎると観光客を誘導する流れが寸断されてしまう恐れがあることには注意が必要です。また,ターゲットとする観光客によっても変わってくることも重要です(余裕があれば,3軸で考えるのがよいでしょう)。

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京都の場合は,国内はもちろん世界的には比較的知名度を獲得できているので,「旅ナカ」を重視して,来てくれた観光客に対するサービス(FAQの整備など)や,旅行中のアクティビティや消費につながる流れ(予約システムなど)を強化することになります。

また,観光インフラの整備には昔から取り組んできており,リピーター率が高く観光客のニーズも多様化しつつあるので,「フロー」型の情報発信を重視するのが良いと考えています。

繰り返しになりますが,本当はターゲットごとに緻密に組み立てたほうがいいのですが,今回はオーディエンスにとって考えるきっかけを与えることが目的なので,このくらいにしておきます。

トリプルメディア

メディアを語るうえで「トリプルメディア」論は避けては通れません。すなわち,広告費を支払って宣伝する「ペイドメディア」,SNS等で不特定多数が話題にしてくれることを期待する「アーンドメディア」,自社で運営する「オウンドメディア」の3つのバランスをどう考えるかということです。最近は,アーンドメディアとSNS等の「シェアードメディア」を区別して,4つにして考えるという主張もあります。

 

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まず「ペイドメディア」ですが,なるべく利用しないというのが僕のポリシーです。よほど集客を増やしたいイベントがあって,どんな顧客であっても満足してもらえる自信があって,宣伝の投資対効果が読めているような場合であれば別ですが,その準備ができていない段階で広告を運用しても効率が悪いからです。しかも,京都の場合はコチラから売り込まなくても取材依頼が入ることが多いので,取材を支援することに予算を投下したほうが良いということで,「メディア支援センター」を運営しています。

次に「アーンドメディア」ですが,ファンを作って話題にしてもらうためには,結局「オウンドメディア」をどのように運営するかというところに行き着くので,実はあまりできることはありません。僕はむしろ,世間でどのように話題にされているのかを情報収集して分析する対象として捉えることが重要だと思っています。最近は様々なソーシャルリスニングツールが普及してきていますが,それらをお金をかけてバリバリ活用するまでいかなくても,インフルエンサーと思われるアカウントをフォローしたり,RSSリーダーでザッピングするだけでも十分じゃないかと思います。

最後に「オウンドメディア」ですが,これは冒頭のメディア戦略に則り「旅ナカ」「フロー」を重視して,ファンとのコミュニケーションを強化していけるようなWEBサイトや公式アカウントの運営を目指すことになります。なおかつ,いま観光業界が盛り上がって予算的な余裕があるあいだに,PDCAサイクルを回していけるような仕組みを作り込んでおくことで,市場や顧客層の変化に柔軟に対応していけるようにしたいと思っています。

 

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民間との差別化

観光地経営という立場でメディア運営を考えるとき,民間のガイドブックやWEBマガジンとの差別化は非常に重要です。民間と同じことをしていたのでは,社会的に無駄が発生するだけでなく,民業圧迫にもつながります。(過去記事でも,何度もお伝えしてきたことなので耳タコかもしれませんが,何度でも言わないと忘れられてしまいがちなので)

DMOとして,民間メディアはできないこと,行政ではできないことを意識して,その地域における唯一無二のメディアを確立しなければなりません。主な差別化のポイントを下図のとおり書き出してみました。地域によってこのバランスは異なるので,実情に合わせたポジショニングをとることになります。

 

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持続可能にするためのビジネスモデルとは?

今日は(今月は?笑)このくらいで。次回は,タイトルにある「持続可能な」を考えるうえで重要なビジネスモデルと,民間との差別化の延長線上にあるB2B(事業者向け)の取組について書きたいと思います。