観光消費の経済波及効果を考えるにあたって

最近少しずつ、これまでの仕事で得た知見や発想を外部の方にお話しさせていただくことが増えてきました。はやく印税で生計を立てたいです()

観光業界最大の関心事

昨日、旅行者による観光消費がどれくらい地域経済に貢献しているのかについて議論する機会がありました。これは観光関係者にとっては最大の関心事といってもいいテーマですが、それだけにいろんな識者がいろんな切り口で持論を展開しているので、なかなか体系立てて建設的に議論するのが難しいテーマでもあります。

ならば、識者の意見を網羅的に調べて比較整理するようなメタ研究をしてみるのも面白いかもしれませんが、それはまたいつかのお楽しみにしておくとして、今回はいつもどおり持論を垂れ流してみたいと思います。

ダイナミック・オープン・データ

地域経済を把握するためには、やはりデータが必要です。いわゆる経済波及効果を推計するためには、行政に産業連関表を作成してもらう必要があります。ただ、こうした統計データは調査を行ってから利用できるようになるまでのタイムラグが半年程度は発生してしまいますし、発表する側の都合で数値の見せ方が変わってしまう可能性も否定できません。いくら大きな経済波及効果が算出されたとしても、関係者全員を納得させることには限界があります。

そもそも、マクロで波及効果額が算出できても、ミクロの事業者や住民単位では観光消費から受ける恩恵にバラつきがあります。産業連関表による波及効果の算出はこうした分布の偏りを考慮していないことを考えると、波及効果の総額を増やすだけでなく、恩恵を得られる機会が均等に与えられるようにすることや、努力に見合った価値配分がなされるようにすることが重要だと思います。

この課題をクリアするための一手段として、ダイナミック(動的)なオープンデータの整備が挙げられます。ダイナミックとは、リアルタイムでデータが更新され、見るたびに状況が変わるという意味です。オープンとは、いつでも誰でも簡単にアクセスできるという意味です。どちらか片方を満たしているデータは増えてきましたが、同時に満たした状態で提供されるデータはまだまだ少ないと思います。

とくに、経済効果を把握のために必要な消費・決済のデータの整備は、消費者プライバシーに関わるので非常にハードルは高いです。とはいえ、ようやく市民権を得つつあるブロックチェーン技術が本格的に普及するようになり、誰でも自由に地域通貨を発行できるようになれば、かなりの精度で実態が把握できるようになるのではないかと期待しています。(ブロックチェーンは、もう一つ記事が書けるくらいのテーマなので、ここでは詳しく触れません)

地元起業家の育成

データの整備が重要といったものの、不確実性の大きい環境においては、統計データが有効に機能しないという指摘もあります。これからますます市場環境の不確実性が増していくと言われるなか、データを通した実態の把握や予測よりも、なにか起こったときの予防策を検討してみたり、小さくても確実に経済効果が得られる取組を積み重ねることが重要になります。

とくに、地元起業家を育成していくことは、経済効果が地域内に滞留することに確実に貢献するだけでなく、観光の外部経済性(混雑やマナーなどの問題)を他人事として捉える人を減らすことにもつながります。

京都は大学の街という大きなアドバンテージがありますし、京都大学で観光に特化したMBAコースの開講まで予定されており、一定の成果が期待されます。DMOとしても、観光分野の事業者の環境整備につながるようなデータや、経営支援サービスを提供していかなければならないと思います。

地域ならではのバリューチェーンやカスタマージャーニー

付加価値が外部へ流出することを防ぐためには、その価値が旅行者によって体験消費されるまでのプロセスを地域のなかで完結させなければなりません。このプロセスの組み合わせが長く、複雑になり、その地域ならではの要素が組み込まれるほど、他の商品(地域)との差別化が強まって競争力のあるサービスになります。

また、そうして提供された地域のサービスを組み合わせて、旅行体験の川上から川下までのカスタマージャーニーをデザインすることができれば、いままで発地側に落ちていたお金を着地側に取り戻すことができます。(たとえば、Expediaなどの予約サイトに払っていた手数料を、払わずに済むようにする、ということです)

f:id:horiet0322:20170625215419p:plain

サービスの組み合わせに地域ならではの独自性を持たせるのは簡単なことではありませんが、地元向けメディアであるLeaf社によるゲストハウス経営は、垂直統合(カスタマージャーニー方向の合併・提携)の成功事例だと思います。

姉小路別邸
http://www.aneyakoji.net/

こういう業界構造の整理・分析もしないとなぁ。

まとめ

観光消費による経済波及効果は、以下の3点を満たすことによって向上する。

  • データをうまく分析することよりも、広く利用できるようにすること
  • 地元起業家の育成
  • 地域ならではのバリューチェーンとカスタマージャーニー