DMOのマーケティングに対する誤解
ここ最近DMO関連のセミナーとか会合に出る機会が何度かあって、そのたびに思うこと。
DMOのマーケティングは旅行者の分析が前提になりがち
どんな旅行者を呼びたいかターゲティングをしましょうっていうのは、それはそれでごもっともなんですが、最終的には各業界や事業者自身が考える内容にまで及んでしまって、どこまでやるの?って問題に突き当たってしまいます。
DMOは会員組織なので、むしろ大事なのは会員企業のロイヤリティを強化したり、会員企業を増やすために、地域内の事業者の分析を行うことのほうが前提ではないかと思います。あくまでもこの前提を支えるために必要な作業として、旅行者のマーケティングがあるのです。
このような誤解が生じてしまう理由は2つ。
- 旅行者のマーケティングをしたことがある人はそれなりにいても(旅行会社の社員など)、旅行者を相手にした事業者のマーケティング経験者(コンサルなど)は少ない。
- 旅行者を相手にした事業者の種類が多いので、これらを網羅的に分析することは容易ではない。個別の業界について詳しい人はいるが、そういう人はその分野に集中したほうが自分の市場価値を高められることを知っているので、わざわざ儲からない観光マーケティングに手を広げるメリットが無い。
つまり、本質を教えられる人がそもそもいない、ということです。なので、事業者がDMOにお金を使ってくれるようになるためのカスタマージャーニーなり、ビジネスモデルキャンバスなりを地道に作っていくことが必要になるんじゃないかと思います。
マーケティングとプロモーションが混同して語られている
マーケティングは顧客を知る、ということです。顧客に情報発信したり、顧客を連れてくることとは違います。よく、「SWOT分析をする」だとか「デジタルメディアへシフトする」ということがマーケティング戦略の説明に挙げられること多いですが、それは本来はプロモーション戦略に分類されるものです。
もちろん、CMOと呼ばれる人にはマーケティングとプロモーションの両方が求められることが往々にしてありますが、これらを混同してしまってプロモーションのための戦略ばかり考えると、ターゲットを外してしまって失敗します。
まずは、「顧客をどのように分類する」だとか「知るための手段」「ポジショニング分析」という、狭い意味でのマーケティングについて考えることが優先されるのではないかと思います。
DMOのマーケティングの基本
ついでなので、DMOのマーケティングと言われたときに、自分だったらどんなことを伝えるか考えてみました。といっても、本質はフィリップ・コトラーのSTP分析です。あえてSTP分析を行わずに、エスノグラフィ(顧客の行動を徹底的に観察する手法)的に顧客像を作り上げてみるだとか、手数を打ちまくって市場の変化を捉える、みたいな方法もあるんですが、メタ戦略の話をし始めると収集がつかないので割愛します。
顧客の属性の例
前述のとおり、DMOの顧客は「地域の事業者」と「旅行者」に大別されます。
まず試しに、地域の事業者がどのような項目で整理できるか、書き出してみましょう。
分類軸 | 項目例、分類の狙い |
業態 | 宿泊、集客施設(寺社、博物館など)、飲食、小売、体験サービス・ガイド、交通、レンタル、製造、芸能 |
エリア | 地域の実態に応じて分類 |
加盟 | DMOにとっての既存会員かどうか 過去に加盟していたかどうか 他の団体に加盟しているかどうか |
規模 | 売上高など(ただし、中小規模の事業者が多いため、定量的に把握することは簡単ではない) |
メディア | 自社ホームページやSNSを持っているかどうか 通販対応しているか |
対象顧客 | 日本人、外国人、リピーターかどうか等 (後述の、旅行者の分類と揃えておくと美しい) |
顧客単価 | 業界によって相場が異なるので、たとえば5つ星ホテルに宿泊する人が利用するかどうか、といった基準で分類 |
顧客回転率 | DMOとしてプロモーション支援の考え方が異なってくるため |
地元意識 | 創業年数や、資本の出処など |
こんな感じで、最終的に提供したいビジネスモデルに影響するような要素を挙げていけば、どれについて調べていくのかの優先順位が自ずと見えてくるのではないかと思います。
つぎに、旅行者の分類についても整理してみましょう。
分類軸 | 項目例、分類の狙い |
居住地 | 言うまでもないですね |
ライフステージ | 年齢よりも、親や子供の有無、同居状況などが重要 |
来訪経験 | 前回来た時期も重要 |
所得水準 | 世帯可処分所得を把握できればよいですが、必ずしも消費意欲と相関しないので注意。 宿泊施設や交通機関のグレードで分類するという方法もある。 |
宿泊有無 | 日帰りかどうか |
メディア | テレビ番組、利用アプリ、目にする広告、情報感度 |
認知 | 認知、ブランド連想、ロイヤリティ |
一応こんな感じの客観的な情報で分類するのがオーソドックスですが、個人的にはもっと要約された属性で分類したほうが、ペルソナ(顧客像)を描きやすいんじゃないかと思います。というのも、最近の研究で旅行者は大きく6種類に分類されると言われていて、それ意外の情報はノイズでしかない可能性があるからです。
その研究結果による分類結果は以下のとおりです。必ずしも独立背反な分類ではないような気がしますが、地域として提供したいサービスやアプローチできるメディアを、この分類ごとに整理し、消費単価や市場成長性でポートフォリオを組んでしまうのが、近道ではないかと思います。
分類名 | 概要 |
Social Capital Seeker | SNSへの投稿が好きな人。入念に計画を立てる。 |
Cultural Purist | 文化的な体験重視。 |
Ethical Traveler | 環境、ボランティア、健康、いわゆるロハスな人。 |
Simplicity Searcher | 用意された旅行商品などを利用。ミーハー。 |
Obligation Meeter | ビジネスやイベント目的。 |
Reward Hunter | 自分へのご褒美。リッツカールトンとか星野リゾートに泊まってそうな人(笑) |
個人的には、上記の6分類に加えて、Meeting Addict?(出会い中毒者)みたいな人たちがいるんじゃないかと思います。
知るための手段
顧客をどのように分類するかを決めたら、これにまつわる顧客情報を収集することになります。収集方法の選択肢は、以下のような感じで分類できるでしょう。
分類軸 | 項目例 |
頻度 | 単発。定期的。リアルタイム。 |
タイミング | カスタマージャーニーのどの部分に注目するのか。 (いわゆる、旅前、旅中、旅後) |
媒体 | オフライン:対面聞き取り。紙アンケート。 オンライン:WEBアンケート。SNS。Wifi等のインフラ。 |
費用 | 無料、有料。 |
調査主体 | DMO自身。地域の事業者からの報告。調査会社。 |
情報アクセス | 内部限り。オープンデータ。 |
最終的には、リアルタイムなオープンデータを整備し、地域の事業者や市民が利用できるようにしていくことが、事業機会の最大化、投資の呼び込み、地域経済の成長につながります。
ポジショニング分析
ポジショニング分析においても、事業者にとってのDMOという目線と、旅行者にとっての旅行先という目線に分けて考える必要があります。
まず、事業者にとってのDMOのサービスを書き出し、それぞれについて想定されるライバルを書き出してみましょう。
サービス | ライバル |
旅行者への情報発信 | 旅行会社、出版社、WEBメディア、交通事業者、広告代理店 |
イベント企画・集客 | イベント会社、広告代理店 |
調査・情報提供 | 業界雑誌、SNS、調査会社、行政 |
融資 | 銀行、投資会社 |
相談 | コンサル、商工会議所、各業界の団体、ノウハウ本 |
認証・表彰 | 業界団体、行政、マスメディア |
制度・規制 | 業界団体、行政 |
これらのライバルに対して、DMOが有利な点、不利な点を整理していけばOKです。事業者の業界によってはDMOの存在感も違うはずなので、可能であれば業界ごとに整理していけるとよいですね。
旅行者について考える場合は、さきにライバルとなる地域をいくつか想定したうえで、差別化できるポイントを整理する、という順序で考えたほうがわかりやすいかもしれません。ライバルとなる地域の選び方は、地域性・入込客数の規模・観光資源などの要素を網羅できるようにすると良いでしょう。
たとえば、京都の場合、外国人目線では「上海」「バンコク」「東京」「飛騨高山」あたりが候補です。日本人目線だと、居住地や季節にも左右されますが「金沢」「伊勢」「日光」「広島」あたりでしょうか。
比較する要素は、「アクセス」「費用」「自然」「夜景」「食事」「文化」「受入環境」など、既存の調査事例などを参考にすれば簡単に思いつくでしょう。ここで、事業者の業界分類ごとの充実度とかで比較してみたりすると、戦略に一貫性をもたせることができて美しいです。
まとめ
こういう内容で講演して、講演料で稼げるようになるのが、DMOの理想のひとつ笑