宿泊予約市場の最適化問題~稼働率100%に向けて~

去年の京都観光は、一時期の勢いは無くなったとはいえ、11月の主要ホテル稼働率が93.1%を記録し(京都文化交流コンベンションビューロー調べ)、依然として需給は逼迫する一年となりました。

この稼働率、90%を超えれば満室(ほぼ予約不可能な状態)と言われていますが、数字通りに捉えると、どんなに頑張っても10%は無駄が発生してしまっているともいえます。もちろん、宿泊施設側のオペレーションの都合があったり、数字には現れない部分の存在が影響していたりして、実質的には100%なのかもしれません。

その真偽は別として、今日はこの稼働率を100%に近づけることについて考えてみたいと思います。

空室情報の提供

まず前提として、部屋在庫を市場にしっかり載せることが必要です。旅行者は様々な予約サイトを利用することができますが、サイトによって卸されている部屋数やプランは異なるので、あるサイトでは満室なのに、別のサイトでは空きがあるなんてことはよくあり、これが機会損失を生んでいます。

これらのサイトを一括検索できるTrivagoなどのメタサーチサイトも普及しましたが、日程が迫ってきて宿泊施設側が予約サイトから部屋を自社サイトだけに引き上げてしまったりすると、空室を探し出すことは極めて難しくなります。

この問題を解消するために、観光庁では「宿泊施設空室情報検索サイト(HVSS:Hotel Vacancy Search System)」の実証実験を開始しました。正直言って、民間の予約サイトが存在するにも関わらず、税金を投入して手数料分を補填して行政が予約サイトを作ることにどこまで意味があるかは疑問です。外資企業への富の流出を防ぐという理屈はあるのかもしれませんが、付加価値を産まない事務職員やSEの肥やしになっているだけだという気がしてなりません。

基本的には、予約サイトを積極的に利用することを促したり、わかりやすい予約画面を構築するようにガイドラインを作成していくことが、行政やDMOの役割ではないかと思います。あとは、誰か、各宿泊施設の予約画面をクローリングして空室情報引っ張ってくるようなサービス作ってくれればいいのにね(笑)

どうせなら、宿が見つからないときは少し離れてるけど実は便利で空いている地域があることを宣伝して、機会損失を避けるような広報にお金を使ったほうが、稼働率の100%化に繋がるのではないかと思います(京都の場合は、大津あたりをアピールする共同広告を予約サイトに掲載するとか)。

事前決済でノーショー対策

予約は成立しているのに当日宿泊に来ない(いわゆるノーショー)客の存在が、稼働率を下げていることは間違いありません。とくに外国人旅行者は、クレジットカードによる事前決済が難しかったり、言葉が通じないから宿泊施設への連絡を避けてしまったり、ノーショーが発生しやすいため、これから外国人旅行者比率が高まる日本ではノーショーを減らすことが大きな課題となります。

ノーショーを回避するためには、事前決済を導入するか、事前に顧客にこまめにアプローチするしかないでしょう。事前決済はExpediaなどの予約サイトを利用すれば実現できますが、手数料を取られてしまうという問題があります。最近は、自社サイトで予約システムを簡単に構築できるようになりましたし、apple payみたいな電子決済がかなり普及してきたので、手数料を抑えられるようにはなってきました。近いうちにbitcoinなどの仮想通貨が定着すれば、さらに簡単に事前決済ができるようになるでしょう(現状、bitcoinは価格が変動しすぎるので決済単位の設定が悩ましいですが)。

予約権売買市場の構築

ライブチケットの転売が問題になったことは記憶に新しいですが、宿泊予約にも同じような売買市場が形成される可能性はあります。実際、予約を転売できるサイトは既に存在しています。

宿泊予約の権利売買サービス「Cansell」

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https://cansell.jp/

ライブチケットの転売との決定的な違いは、希少価値分を上乗せして高値で売るのではなく、キャンセルしたいけどキャンセル料を取られてしまうから損失を回避するために安値で売るためのサービスというところです。

着地側としては予定通り宿泊料金を得ることができますし、来れなかったはずの旅行者が来てくれるので、宿泊以外の消費も発生するというメリットがあります。もちろん、これによって直接的に稼働率が上がるわけではありません。しかし、急遽予定が入ることを恐れてギリギリまで予約を遅らせてしまうことで予約するタイミングを逃してしまうようなことが減り、間接的に稼働率が上がると考えられます。

ただ、いま誰が予約権を持っていて、当日誰が誰の名義で泊まりに来るのかを把握することが難しくなることが懸念されます。「Cansell」はそのあたりの課題をある程度解消する仕組みを用意した点で画期的なのですが、流通量が増え始めるとトラブルが発生してしまいそうな気もします。

とはいえ、この予約権売買市場が成立すれば、宿泊施設の価格決定権が消費者側に移るので、宿泊施設の実力を把握しやすくなるという意味で、マーケターとしては興味深いです(この記事のテーマとは逸れますが)。

まとめ

稼働率を上げるためには、大きく3つのポイントがある。

  • 在庫を市場に載るようにする
  • 事前に決済を確定させてしまう
  • 旅行者の予約リスクを減らすための予約権売買市場の形成

まぁこれ以外にも、旅行者の全てのニーズに対応できるように幅広い価格帯を用意することや、正確な需要予測に基いて柔軟に供給できるように工夫することも考えられますが、客室という不動産でこれらを実現することはかなり難しいので、上記の3点をポイントとして上げました。