京都観光の実力(ネットプロモータースコア)

DMOのアイデンティティのひとつは目標管理なので、成果指標の設定が義務付けられています。観光地としての実力を測るためにも、これをどのように設定するかが重要です。基本的には、観光庁が国の政策目標として採用している観光客数や消費額に準じることになりますが、いくつか問題があります。

  1. DMOの事業以外に、指標に影響する要素が多すぎる
    為替レートや、発地側の所得水準に大きく左右されますし、民間事業者の活動もDMOが関係していたりしていなかったりで、非常に複雑です。本当に、自分たちが努力したことによって得られた部分が見える指標でなければ、意味なしです。
  2. 大胆な推計が伴うので、例外値を捕捉できていない
    もの凄い大富豪が観光に来ていても、年に数日しかない調査日に彼がたまたまアンケートに答えてくれるシチュエーションが無ければ、指標には反映されません。年末年始の帰省も含まれていません。
    また、回答者側が、自分の旅行経験を思い出しながら回答しなければならないという点においても、データの信憑性には限界があります。
  3. 静的なデータなので、作成する側の都合が良いように誘導されがち
    Twitterや株式市場みたいなリアルタイムにオープンされている動的データ(フローデータ)ではないので、タイムラグが発生したり、公表する前に誰かしらの意図が介在してしまいます。

こういった問題を乗り越えるためには、様々なITサービスを駆使しなければならないのですが、予算や技術力に限界があるなかで妥協点を見出していかなければなりません。とはいえ、分からないからといって、指標を乱立させることだけは避けなければなりません。なぜなら、指標が増えるだけ解釈の余地が増え、簡単に言い逃れできるようになってしまうからです。

ネットプロモータースコア

現状、着地側の指標として攻守最強と言われているのが、ネットプロモータースコアです。事業の成功との相関が強く、なおかつ現状のデータから簡単に算出することができます。概要は以下のとおりです。

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NPSの良いところは、ネガティブな顧客にも目を向けているところです。安易に平均値を出すようなことはせず、データの分布を考慮した算出方法になっています。

ただし、ネットプロモータースコアも万能ではなく、いくつか批判があるので留意しておきましょう。

ソシオメディア「NPSは役に立たない? よくある5つの批判を検証」

京都の観光の実力

幸い、京都市は観光統計が整備されているので、これを使ってNPSを出してみました。京都市が満足度調査を始めたのは2011年からなので、2011年以降の5年間の推移を日本人と外国人に分けてグラフ化しています。

なお、ネットプロモータースコアは11段階評価をもとにした集計が推奨されていますが、京都市の統計は7段階評価です。そこで、算出にあたっては最高評価(7段階目)を推奨者、1~5段階目を批判者としています。

また、京都市は市民生活実感調査を実施しており、観光についての設問が2012年から作られています。NPSは、他人への推奨度を利用したロイヤリティ指標ですが、ここでは市民生活と観光の両立が市民のロイヤリティに繋がると考え、以下の2項目を採用しました。

  • 京都市民は、観光客を温かく迎えるなど、京都の観光振興に協力的である
  • 京都は、市民にとってくらしやすい観光都市である

これらは5段階評価なので、(NPS)=(5段階目)ー(1~3段階目)としています。

日本人旅行者、外国人旅行者ともに、2012年に底を打って上昇傾向となっています。旅行者の急増への対応が追いついていなかったと解釈するべきでしょうか?日本人は2011年の水準を回復していないので、やはり混雑への不満が影響していると考えられます。

市民の観光に対する協力意向は少しずつ改善してきているのが分かります。一方で、市民の生活と観光の両立についてはうまくいっていないようです。意識とは裏腹に、実態としては不満を感じてしまっているので、旅行者の満足度とのバランスをどのあたりで保つかを考えなければなりませんね。