北陸新幹線の行方

連日、北陸新幹線のルート決定が新聞記事を賑わせていますね。あんまり斬新なアイディアは浮かばないのですが、多少なりとも触れざるを得ないので、備忘録がてら書いておこうと思います。

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新幹線の整備効果

新幹線のような公共性の高い事業といえども、基本的には「採算がとれること」がもっとも重要です。LCCを空港に誘致するために、発着料を減免している自治体がありますが、もともとニーズの無い市場を歪めるようなことは、社会全体の非効率を招きます。したがって、JR西日本が主張した小浜ルートは、費用対効果が良く(様々な試算がありますが)合理的だといえるでしょう。

さて、合理性を判断するために、そもそもの新幹線の整備効果について整理しておきたいと思います。整備効果は、おおむね以下の6つに整理することができます。これらは、効果をダブルカウントすることがないよう、経済理論的に検証されてきた結果、まとめられたものです。
参照)国土交通省整備新幹線の整備効果等に関する参考資料

  1. 時間短縮効果

    従来の交通機関よりも移動時間が短縮されることで、移動中だとできなかった仕事ができるようになる、という理屈で計算されます。(本来1時間働けば1000円稼げる人であれば、1時間早く移動できることで1000円得する)

    最近は、新幹線のなかでも普段と同じレベルで仕事できるようになってきたので、必ずしもこの理屈が当てはまらなくなってきています。これまで飛行機で移動していた人が、新幹線で移動できるようになれば、仕事ができる時間は増えるという考え方もできるかもしれません。

    北陸新幹線の場合は、主な比較対象が在来線(特急サンダーバード)なので、車内での労働生産性は大して変わらないでしょうから、単純に時間が短くなったことに比例して効果を推定する考え方でも、歪みは生じないということで良いと思います。

  2. 観光消費の増加(交流人口の増加・滞在時間の延長)

    北陸新幹線が金沢まで開通したことで、金沢の観光客が大幅に増えたと話題になりました。開通したことの話題性を理由に訪れる人、その話題を聞きつけ訪れる人、所要時間が減ったから遊びに行けるようになった人など、様々な要因で観光客は増えます。

    また、移動時間が短くなった分だけ滞在できる時間は長くなるので、夕食をしてから帰れるようになったりして、観光消費額が増えることにも繋がります。

    ただし、逆に地元住民が域外へ旅行しやすくもなるため、富が流出する可能性もあります。これをストロー効果と呼びますが、こうしたネガティブな影響はルート選定時点では考慮されていないことが多いです。

  3. 沿線開発

    駅ができたり観光客が増えることで、駐車場の整備など様々な建設需要が発生し、経済活動が活性化されます。

  4. 環境負荷の削減

    自動車で移動する場合と比べて、二酸化炭素の排出が少なくなることを評価するものです。二酸化炭素の排出が少なくなることをどのように評価するかは議論の余地がありますが、アンケートで「環境改善に何円分の価値があると思いますか」と聞いた結果をもとに、数値をはじき出すような方法(仮想評価法)があります。

  5. 交通事故の減少

    新幹線はこれまで死亡事故を起こしたことがありません。自動車や在来線の踏切事故などと比較して、失われる人命や復旧コストなどが減ることを評価します。人の命は値段が付けられないとはいいますが、例えば平均生涯賃金などで換算することは可能です。

  6. 災害時のリスク分散

    一番評価が難しいのが、災害時に迂回路として機能することの評価です。専門用語では、冗長性(リダンダンシー)と呼びます。何年か前に新東名高速道路ができましたが、あれは旧東名高速道路津波等の災害で通行止めになっても、移動できるようにという目的もあって作られたものです。

    北陸新幹線も、東海道新幹線が長期間通行止めになった際の迂回路としての機能が期待されます(かなり遠回りなので効果は限定的かもしれませんし、リニアが出来てしまえばお役御免)。

これらの効果のなかでもっともシンプルで計算がしやすく、金額も大きいのは「時間短縮効果」です。なので、最短・最速ルートである「小浜ルート」という選択は合理的、という経営判断がしやすいのです。

細かい数字を知りたい人は、コチラをご参考ください。
参考)福井県整備効果:北陸新幹線

JRは災害リスク評価をしてくれるわけではない

災害時に交通ネットワークが分断されてしまうことの損害が、JRの経営判断に与える影響は少ないと考えられます。思いつく理由としては、以下のとおり。

  • 確率の予測が難しい
  • 迂回路として利用されるような緊急事態にあっては、いずれにしても売上は大幅に減少することが予想されてしまう
  • 東海道新幹線が不通になってもJR東海が困るだけで、JR西日本には影響が少ない

なので、災害による損害が回避されることで、平常通りの経済活動を続けられる効果の評価は国が積極的に行い、JRの採算ベースによる判断に偏りすぎないようにしなければなりません。こういう場面でこそ、住民の税負担の合意をとりつける政治の役割が期待されるわけですが、我田引鉄が横行しているのが現実です。

新幹線ネットワークの弱点は新大阪

北陸新幹線は、京都駅を通ったあと、東海道新幹線と並走して新大阪駅終着となるようです。学研都市を通って、天王寺駅終着とする南回りルートも提案されていましたが、これは採算が合わないため不採用となるようです。(これもやはり、JRの主張が支配的)

そうなると、新大阪駅東海道新幹線山陽新幹線北陸新幹線リニア中央新幹線と、4つの新幹線のターミナルとなります。交通結節点を集中させると、利便性は高まり経済効率は良くなります。このように、とりあえず新大阪に集めてから、各地へつなげるようなネットワークのことをハブ&スポークと呼びます。航空業界では当たり前ですね。

しかし、そのハブとなる新大阪駅が災害で使えなくなったら、4つの新幹線が同時に分断されることとなってしまいます。実際、新大阪駅のあるエリアは津波浸水被害の可能性もあるようです。まぁ、そんな状態になったら、輸送手段は自動車や空輸に切り替わるとは思いますが。

関空直結ルートという妄想

最早、新大阪終着という決定は覆らないとは思いますが、仮に災害時の影響をうまく分散することを重要視するのであれば、南周りルートを採用したうえで天王寺からさらに延伸して関空直結が面白いのではないかと思います。

まだリニア中央新幹線がどこを通るのか確定していませんが、もし学研都市周辺に駅ができるのであれば、北陸新幹線と接続することができます。リニアが学研都市に停車する頻度はかなり少ないとは思いますが、災害時には学研都市をターミナルにして運用することが可能になります。

どうしても、大阪北部や山陽方面へ移動したい場合は、京都駅で乗り換えればよいでしょう。実際、北陸から山陽へ移動する場合は、新大阪駅よりも京都駅のほうが乗り換えが楽です。とりあえず大阪に行きたいということであれば、天王寺やなんば到着でも利便性はあまり変わらないでしょう。

そして、なんといっても、関空への高速アクセスが実現することが魅力的です。近鉄や南海などのルートが重なる事業者にとっては堪ったものではないでしょうが、空港が遠い京都に住む人間にとっては重要です。

それ以上に、外国人観光客に大して大きな影響を与えることになります。彼らは新幹線乗り放題のレールパスを利用することが多いので、空港から直接、京都や北陸など日本全国に短時間で訪れることができるようになります。まぁ、あえて大阪で乗り換えを発生させることで、滞在消費を促すという狙いもあるかもしれませんが。

整備するための費用は莫大になるかもしれませんが、防災や観光の観点から大きな画を描いてくれれば良かったのになぁとは思います。舞鶴ルートだとか、リニアを京都へ、とか主張するよりも、北陸新幹線関空につなげて欲しかった・・・笑。

 

どこをどう通るにしても、こんな交通ネットワークが実現するのはまだ何十年も先の話かと思うと、気が遠くなります。その頃には、テレビ電話や仮想現実が当たり前になっていて、移動するという概念も変わっているかもしれませんが。今日はこのへんで。