観光客数の目標値の作り方

京都観光総合調査を使ったざっくり分析というミッション(下記参照)をひとまず終え,次はDMOとしての戦略を作りたいな,と思っています.そこで今回は,頭の体操のために,戦略を作る上で欠かせない目標設定を試算してみたいと思います.

 

まず前提として,現在の国の目標は以下のとおりです.この数字の根拠についてきちんとした説明は見かけたことがありませんが,たしか日本最大の輸出産業である自動車産業の規模が15兆円くらいだったはずなので,観光をこれに匹敵する産業にしようという発想なのではないかと思います.そうすることで,GDPを現在の500兆から600兆へ押し上げようということみたいです.変動相場制においては輸出を頑張ってもGDPは相殺されるなんて話を聞いたこともありますが,そうだとしても副次的な効果はあるでしょうし,本題から逸れてしまうのでスルーしておきます.

 

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基準はGRP(域内総生産)

京都市の目標値を設定するうえでも,GDPを基準にすることにします.国ではGDP国内総生産)と呼びますが,地域の場合はGRP(域内総生産)と呼びます.京都市GRPは2年遅れくらいで毎年算出されており,21世紀に入ってからは横ばいが続いています.これを市内人口で割った一人当たりGRPも横ばいです.(実質GDPで評価するべき,という話はスルーで)

 

ただ,これからは人口が減少し始めるのでGRPも減少していくと考えられます.京都市の人口推計値を用い,一人当たりGRPは年率0.2%でわずかに成長と仮定して推計した結果,以下のようになりす.ここで成長率を0.2%としたのは辻褄合わせによるものです.一応,2035年になっても一人当たりGRPは427万円で,2007年の431万円を超えないということで,控えめな設定にはなっています.

 

2015年に約6.06兆円あったGRPが,2030年には5.68兆円にまで減るので,いまの経済規模を維持しようと思ったら4000億円くらいの追加が必要ということになります.

一人当たりGRPが増えるなら経済規模が小さくなってもいいんじゃないの?という疑問もあるかもしれませんが,そんなこと言い始めると人口1人になってもいいってことになってしまいます.京都という街にとってどのくらいの経済規模が最適なのかには議論の余地がありますが,とりあえず現状の経済規模を維持することを目標として計算を進めることにします.

 

減少するGRPを埋め合わせるために必要な観光消費

不足するGRP4000億円を稼ぐためには,観光消費額を4000億円増やせばいいという訳ではありません.観光客によって地域にお金が落ちても,それがそのまま域外に流出してしまえばGRPは増えません.

たとえば,観光客に1000円のお土産を売るとして,原材料を300円で市外から調達した場合,その300円は域外流出,残りの700円が販売スタッフや加工する職人の人件費などとして域内の付加価値になる,といったイメージです.

この比率を計算するためには,大規模な調査を行って「産業連関表」というデータを作らないといけないのですが,あいにく京都市では最新の産業連関表(H23調査分)がまだ公表されていません.調査時点から5年経ってしまってるし,震災の影響を受けている可能性もあるので,使えたとしても微妙なデータなんですけどね笑

無いものは無いでしょうがないので,今回は他の地域のデータを参考にしてみることにします.ざっと検索して見つかった,地域単位で観光消費から付加価値額を算出している事例を下表にまとめたところ,だいたい消費額の7割前後が付加価値となっているようです.そこで,京都市も消費額の70%が付加価値となるものと仮定することにします. 

 

GRPを埋め合わせるために必要な消費額を逆算してやると,以下のようになります.だいたい,いま京都市の観光消費額が1.0兆円くらいですが,2020年には1.2兆円,2030年には1.5兆円くらいまで増やさないといけない,という感じです.

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日本人客の減少は避けられない

人口が減少するのは京都市だけではなく全国的な現象なので,当然京都市を訪れる日本人も減少することが予想されます.京都市への観光客だけが都合よく増えるなんてことは起こりえません.国立社会保障・人口問題研究所によると,2030年の人口は2015年の93.5%まで減少する見通しとなっています.日帰と宿泊の比率は変わらないとすると,以下のような感じでグングン減っていきます.

 

 人数の減少は避けられないとなると,できることはただひとつ.消費単価を上げていくことです.

消費単価の設定

消費に関するデータは少ないので,思い切って数字を作るしかありません.

日本人の消費単価は,旅行観光消費動向調査(2015年)における京都府を訪問した人の消費単価を利用しました.これに観光客数を乗じると京都市の消費額を超えてしまうので,コントロールトータル(合計金額が一致するように按分しなおす処理のこと)で調整しています.

外国人のほうは,この記事の冒頭にリンクを張ったプレスリリース上で算出した値を用いています.外国人一人当たり滞在1日あたりの単価が15,875円で,平均泊数が2泊なので滞在は3日だとして,15,875 ✕ 3 = 47,625円としました.訪日客の平均が17万円くらいだったはずなので,京都市における消費額としては違和感の無い数字だと思います.

文章だけだと分かりにくいので,計算の流れを図に整理してみました.

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この消費単価を上げるほど,今後呼ばなければならない人数を抑えることができます.ここは違和感のある数字が出てこないように総合的な判断をした結果(笑),以下のとおり設定しました.

  • 外国人 宿泊客 2,000円up/年
  • 外国人 日帰客    200円up/年
  • 日本人 宿泊客 1,000円up/年
  • 日本人 日帰客    100円up/年

消費単価が上がればそれほど混雑は悪化しない

 以上の結果をもとに,2035年までの予測を行った結果,以下のようになりました.消費単価がうまく上がれば,2015年に5,684万人だった入込客数は,2020年には5,840万人,その後も横ばいという感じです.

逆に言うと,単価を上げることができなかった場合,京都市の経済規模の縮小を受け入れるか,客が来すぎて混雑問題が悪化することを許容するか(ホテル増やしたり,需要分散である程度カバーできるかもですが),ということになってしまいます.

京都市の人口推計の起点が2015年ではなく2010年の人口なので,変化量が不自然なところがありますが,多めに見てください笑

 

 

まとめ

ある程度規模の大きい自治体でないと手に入らないデータを使った部分もありますが,ほとんどは公表データを組み合わせつつ仮定値を挟むことで,他の地域でもこんな感じで目標値を作ることは可能です.

大事なのは,

  • GRPの維持という究極目標に紐付ける
  • 日本人・外国人,宿泊・日帰,単価・人数といった区分に分解して,
    不自然な数値が出ないように調整する

ということです.多少強引でも各数値が連動するようにしておかないと,目標値に届かなったときの原因を解釈するのが難しくなり,目標値がモチベーションを上げるためだけのただの目安になってしまいます.(ほとんどの地域で掲げられている目標が,まさにこの状態).

まだ外に出せてない数値なども使いつつ,今回の試算の精度を高めて,近いうちにもう一発成果を出せるよう頑張ろう.